なぜ日本シリーズが面白いのか
新しいセパ格差の象徴とも言えるのが、第4戦で先発した41歳のベテラン左腕石川の投球だろう。内角を意識させ、読みの裏をかく幻惑投球で6回1失点(自責0)。オリックス打線を手玉に取った。打つ方では、敗れはしたものの第5戦の8回に山田が放った同点3ラン。連続四球と制球に苦しんでいたヒギンスが、カウント3-1から選択したチェンジアップの配球を読み切った“頭を使った”一発だった。故・野村克也氏が植え付けたノムラID野球の一端を見せられたシーン。 2012年に原監督が率いる巨人が日ハムを下して以来、8年連続で日本シリーズはパ・リーグのチームが制してきたが、ヤクルトは、セの持ち味である「細かい野球」で、そのセパの格差を埋めている。パの独壇場だった日本シリーズが面白くなっている要因のひとつだろう。 現役時代に阪神、ダイエー(ソフトバンク)、ヤクルトでプレー、現在は福岡在住でパ・リーグの野球に詳しい池田親興氏は、こんな分析をしている。 「5試合中4試合が1点差ゲームとなっているから本当に面白い。そういう展開になっている理由は両チームの先発投手の頑張りにつきるでしょう。先発が序盤にゲームを壊すケースがひとつもない。そして、もうひとつ試合を面白くしているのはどちらのチームもブルペンに少なからず不安を抱えており、完璧な勝利方程式が成立していないこと。だから最後の最後までどうなるかわからない。ベンチにとっては胃が痛くなるような試合展開がファンに手に汗を握らせている」 先発投手の成績を順番に見ていくと、ヤクルトは第1戦の奥川が7回1失点、第2戦の高橋奎が完封、第3戦の小川が6回3失点(自責2)、第4戦の石川が6回1失点(自責0)、第5戦の原が5回3分の2で2失点(自責1)とゲームを作った。毎試合、高津監督が「先発が頑張ってくれた」と先発を称える内容となっている。 一方のオリックスは第1戦の山本が6回1失点、第2戦の宮城が6回一死までパーフェクトに抑える投球で7回3分の2を投げ1失点、第3戦の田嶋は5回途中で降板したが、2安打1失点、第4戦の山崎颯一郎は5回1失点、第5戦の山崎福は5回3分の2を投げて2失点で、こちらも素晴らしい内容。投手にとって最も難しいイニングと言われる初回に失点した投手は両チームで一人もいないなど、序盤に崩れるパターンがないことが緊迫感のあるロースコアゲームを成立させることになっている。