2025年の日本経済は「曇り空」、トランプ関税次第で「土砂降り」もー元日銀理事の門間氏
トランプ関税の脅威
2025年にはトランプ氏が米大統領に返り咲く。もし、同氏が公約通り、全ての国に対して10~20%の関税を課したりすると、報復関税で対抗する国も出てくるだろうから、世界全体で貿易戦争になってしまう。世界経済に対してかなり悪い影響を及ぼすと、国際通貨基金(IMF)なども警告している。当然、日本の景気も悪くなる。 トランプ氏は、日本の対米向け自動車生産拠点のメキシコやカナダに25%もの関税をかけようとしており、実行されれば、その影響は大きいだろう。自動車は日本の基幹産業だから、大変な話だ。 一方、中国はトランプ氏と関係なく、不動産バブルの崩壊で大変な状況にあり、既に日本からの対中輸出は減少している。中国は景気悪化に伴って過剰生産分の輸出を強化しており、東南アジアや中東、アフリカなどの市場で日本企業は安価な中国製品に押されている。トランプ政権が公約通り中国に対して、60%もの関税を課したとしたら、行き場を失った中国製品はますます他国市場へ流入してくるだろう。 トランプ氏の「自国第一主義」が米国内で支持を得たのは、グローバリゼーションの失敗の反動だろう。米国は2000年代の初めぐらいまでは、グローバリゼーションは良いことだと考えていた。中国を世界の市場に取り込むことで拡大均衡ができ、米企業も世界各地で低コストの大量生産ができて、みんながもうかるようになるからだ。 しかし、2010年代から、米国はグローバリゼーションが自分たちのためにならないと認識し始めた。08年のリーマンショック後の米国経済はなかなか回復せず、格差もどんどん開き、ホワイトカラーが職場を奪われて中間層が没落していく。米国のためにならず、中国や新興国だけを利するような仕組みはよくないという考え方が、トランプ氏だけではなく、米国内で広まっている。
米金利は低下、円相場は1ドル=140~150円か
トランプ政権下で、米国の金利はどちらかというと、下がっていくとみている。保護主義で物価が上がるから、消費者の購買力が失われる。歳出削減や移民流入制限などの施策もあり、景気が悪くなる方向に働くから、連邦準備制度理事会(FRB)はおそらく政策金利を下げていくと思う。 米金利の低下に伴い、円相場は1ドル=140~150円程度の円高・ドル安方向に振れるのではないか。トランプ氏はどこまで為替政策を考えているか分からないが、産業の立場からするとドル安の方がプラスだろう。 結論として、2025年の日本経済はこのまま曇りで行く。ただ、非常に不確実性が高いので、ちょっと晴れ間が出る可能性もあれば、トランプ氏が本当に正気を失って、公約通り全て関税を10~20%引き上げたりすれば、ザーザー降りになる可能性もある。おそらく、トランプ氏はそこまでやらないと思うが、雲がある以上、いつ雨が降ってくるか分からない。 (聞き手:nippon.com編集部 持田譲二)
【Profile】
門間 一夫 みずほリサーチ&テクノロジーズのエグゼクティブエコノミスト、元日本銀行理事。1981年東京大学経済学部卒業後、日銀入行。調査統計局長、企画局長を経て、2012年5月理事。金融政策担当として、白川方明総裁の下で「2%物価安定目標」の採択に至る局面を担当。13年3月から国際担当として、国際会議 で黒田東彦総裁を補佐。16年6月から現職。著書に「日本経済の見えない真実」(日経BP、2022年9月)