2025年の日本経済は「曇り空」、トランプ関税次第で「土砂降り」もー元日銀理事の門間氏
とはいえ、物価動向には注意が必要だ。地政学リスクや米中対立によるサプライチェーン(供給網)の分断、気候変動、少子高齢化など、世界的に供給面での制約があり、物価が上がりやすくなっている。傾向として、高インフレとまでは言わないが、2010年代のような低インフレの時代には戻らないというのが一般的な見方だ。賃金上昇が物価との見合いで十分なのかどうか、日本の場合ははっきりとは見えていない。
「壁」解消の効果は「すずめの涙」
「手取りを増やす」として、国民民主党が提起した「103万円の壁」解消は「社会的公正」の観点から、実施するべきだとは思う。生活維持に必要な最低限の収入を守るはずの課税最低限が、長期にわたって据え置かれてきたからだ。ただ、経済対策の観点からすると、多少はプラスになっても効果はあまり期待できない。 自民・公明・国民の3党は所得税の課税最低限について、178万円を目指して引き上げることになったが、フルに実現したとしても減税規模は総額7兆~8兆円(政府試算)だ。インフレで現金・預金が90兆円も失われているから、経済効果は「すずめの涙」ではないか。しかも、減税が消費に回る分は約25%と考えられているので、最大2兆円、国内総生産(GDP)で0.4%程度の押し上げ効果しかない。 人手不足対策として、「アルバイトの壁」や「年金の壁」「社会保険料の壁」などの引き上げも検討されているが、効果は多少あっても、目に見えて感じられるほどではないと思う。例えば大学生が親の扶養控除から外れないように、年末近くになるとバイトを手控える現象が解消され、年末までフルで働けることにはなる。この効果を大きいと見るか小さいと見るかによって、評価は変わる。 今のところ日本経済にはけん引車になる産業が見当たらず、経済が落ちないようにがんばるしかない。ただ、成長力を高める好例は、半導体受託製造で世界最大手のTSMC(台湾積体電路製造)進出だ。立派な外資を導入して、日本の強みである半導体産業で飛躍を遂げていくための基盤となる。政府は1兆円以上も投資しているが、これはラストチャンスなので、支援しないリスクの方が大きい。今やらないと、日本の強みだった半導体はなくなってしまう。資金が入っている以上、絶対成功させる強い意思を持たないといけない。 半導体に次ぐ第2、第3の有望分野はないが、日本は課題満載国なので、再生可能エネルギーとか、少子高齢化に対応するような情報技術(IT)の育成とか、不退転の気持ちで強化して行く。そのために必要な技術や人材は海外からも受け入れていく。そういうビジョンを持った成長戦略が望まれる。