「五輪史上最難関」と呼ばれるパリのマラソンコース全容は? 市民ランナーの記者が走ってみると…、最大の鍵は過酷なアップダウン攻略
▽エッフェル塔を脇目に終盤は熱い展開も 終盤は観光名所のエッフェル塔を脇目にデッドヒートが繰り広げられる熱い展開が予想される。男子が8月10日、五輪史上初めて女子のレースが8月11日の閉幕日に実施される日程で、ふさわしいクライマックスとなりそうだ。 帰国後、2月末の大阪マラソンを走った小山選手に現地を見てきたことを伝えると「いろんな人から『日本だとどこの坂に似ていますか』と聞かれるんですが、例えられる場所がなくて困っているんです」と吐露された。数多くのコースを走ってきた選手がそう言うのだから、筆者も当然思いつかなかった。 ただ、小山選手は取材にこうも答えている。「スピードでは海外勢に負けるかもしれないが、アップダウンや暑さがあれば十分日本選手にも可能性がある」。1月の大阪国際女子マラソンで19年ぶりに日本新記録を出した前田穂南選手(天満屋)は、2020年に起伏のある青梅マラソン30キロの部でも日本新をマークしている。「脚づくりができていれば、しっかり走れると思う」と自信を示すのも頼もしい。
▽マラソン大国、復権なるか かつてはマラソン大国と言われた日本も、五輪の表彰台は2004年アテネ大会で野口みずきさんが獲得した金メダルが最後。世界記録と日本記録の差も男女とも大きく開いている。今回の勝負もそう簡単にはいかないことは、実際にコースを見たからこそよく分かっている。 パリ代表の海外勢に強敵は多い。日本の実業団NDソフトに所属し、男子でケニア代表に選出されたアレクサンダー・ムティソ選手もその一人。5月中旬に取材させてもらうと「ケニアのクロスカントリーコースで準備しないといけない」と余念なく、代表チーム合流へと飛び立った。他にも3連覇を狙うエリウド・キプチョゲ選手(ケニア)や女子で世界記録を持つティギスト・アセファ選手(エチオピア)ら、注目の存在がそろっている。 ▽真夏の大一番、高速コースよりチャンスも? 当時「五輪最難関」と言われ、酷暑の中で行われたアテネ大会のコースを見事に攻略した野口さんは、終盤の下りを迎える前に25キロ付近の上りで意表を突いて飛び出し、独走態勢を築いた。「変化に富んだコースの方が私はリズムに乗りやすいところがあるし、練習をやってきた自信があった。アテネの坂に耐えられるようなトレーニングをしたからこそ、大胆に走れた」と振り返ってもらったが、今回の選手にも対策次第では上位進出のチャンスがあるだろう。
鈴木選手を指導する山下佐知子さんは「高速コースと比べると、工夫のしがいはある」と前を向き、東京五輪6位で今回も出場する一山麻緒選手(資生堂)の専任コーチを務める永山忠幸さんも「フラットなコースよりチャンスはある。集中力が高く、精神力が強い選手が勝つ」とメンタル面の重要性を説き、一切諦めていない。 過酷なレースに立ち向かうため、代表選手たちは最善の準備を施している。真夏の大一番での日本勢の奮闘を伝えるべく、再びパリに向かおうと思う。