なぜ横浜DeNAは最下位に終わったドキュメンタリー映画を劇場公開するのか…営業戦略と伝えたかった希望の光
ドキュメンタリー映画は事前にシナリオを描けない予測不能のドラマ性が魅力だ。とくに勝ち負けのあるスポーツ作品はそうだ。それが優勝への軌跡を追うカタチとなれば、製作サイドは何も考える必要もないだろう。だが、今回は最下位。編集、構成に工夫が必要となり、そもそもドキュメンタリー作品として成立するのか、ファンに受け入れられるのかという問題もあった。それでも球団は、最下位に終わったシーズンの映像作品を全国の劇場で公開する決断を下した。 なぜなのか。 球団MD部の原惇子部長は、「事業側の観点から見ると、シーズン、ファンフェスも終わり、来年2月のキャンプインまで時間があき、お客様との接点がなくなる。そのオフの期間に、今季を振り返るドキュメンタリー映像作品を出すことで、ファンの方々とのコミュニケーションを継続していきたいということが狙いとしてある」と説明した。 試合のない間もファンの関心をつなぎとめる営業戦略のコミュニケーションツールのひとつとして、今回も作品が公開されることになったのである。 横浜DeNAは、経営権を取得した2012年に1年間の戦いをベンチ裏から密着した異例のドキュメンタリー映像作品『ダグアウトの向こう』を発表した。タブーとされていたロッカー内にカメラを入れる球界の常識を打ち破る企画は、大きな話題となりファンの共感を呼んだ。以降、アレックス・ラミレス氏が監督に就任した 2016 年からは『FOR REAL』として継承され、昨年は新型コロナ禍で撮影に制限がかかったため「1本の作品にするのは難しい」との判断で制作は見送られたが、“ハマの番長”の監督就任というタイミングもあり、2年ぶりの復活となった。 「これまでも好評でSNSなどで絶えずファンの方々の反応もあり、1年を通して、お客様にサービスを提供して接点を作ることが継続できているという手応えがある」と原氏。今回が8作品目となる過去の実績と手応えがGOサインにつながっている。 現在では、他球団も球団広報がカメラを回し、ベンチ裏やミーティングのシーンなどを球団の公式Youtubeや公式サイトで紹介している。今季6年ぶりにセ・リーグの覇者となり、20年ぶりに日本一となったヤクルトは高津監督が9月にミーティングで発した「絶対大丈夫」の言葉が、終盤戦のスローガンとなったが、これも球団がミーティングのシーンを撮影し公開したのが発端。 “秘密主義”だった阪神や巨人でさえ動画を活用。横浜DeNAが先鞭をつけたファンとの接点を深める手法が今や一般化している。 横浜DeNAには“老舗”ゆえのノウハウの蓄積と選手との信頼関係の構築がある。 「他球団に比べると選手との信頼関係が構築され、カメラで撮られることに慣れて意識もしなくなりより、自然に素の姿を見せてくれるようになった」 それゆえに前原氏も「今回は大きな苦労はなかった」と言う。 ただ新型コロナの感染拡大を防ぐために会食の制限などのチームのルールがあり、これまでであれば、選手が本音を漏らす場面としてポイントになっていた選手同士の食事シーンなどがなく、選手の素顔に迫る手法に関しては悩まされたという。