世界は数式で表されるのか? 「残留応力場」の破壊シミュレーションから断層や北極の氷の破壊予測に挑む!
スマホを落とすとバキバキに割れてしまうことがあります。これは画面に使われる素材「化学強化ガラス」の内部に「残留応力」があるためです。この残留応力を持つ材料のシミュレーションに世界で初めて成功したのが海洋研究開発機構(JAMSTEC) 数理科学・先端技術研究開発センター(MAT)の廣部紗也子研究員です。実はこの「残留応力場」の破壊シミュレーションは、強化ガラスだけでなく、断層の破壊や北極や南極の氷の破壊過程の予測にも応用できるのだそうです!(取材・文:岡田仁志) 【写真】スマホはなぜバキバキに割れる?その割れ方を計算で再現してみた【世界初!】
干潟のひび割れから化学強化ガラスへ
──廣部先生は、残留応力場の破壊過程を再現する数値解析を世界で初めて成功させるにあたって、粒子離散化有限要素法(PDS-FEM)という手法を使ったわけですが、その手法そのものは以前から知られていたわけですよね。なぜ、これまで残留応力場の数値解析ができていなかったのでしょうか? そもそも破壊のシミュレーション自体がとても難しいんです。その上さらに残留応力場が加わるとなれば、どう解析していいかこれまでまったく分かっておらず、チャレンジする研究者はいなかったのかもしれません(笑)。破壊力学の分野では、ほかにも取り組むべきテーマがたくさんありますしね。 でも私自身は、残留応力場の破壊をやりたかったんです。残留応力のない物体の破壊シミュレーションそのものについてはずっと研究されていて、新しい解析手法が開発され続けています。 しかし、残留応力場の破壊をシミュレーションするためには、PDS-FEFをベースにするしか理論的に方法はないと思います。たまたま指導教員だった先生がPDS-FEMの研究をされていたおかげで、この手法が身近にあったのがラッキーでしたね。 ──どうして残留応力場をやりたかったんですか? 難しいから、これまで誰もチャレンジしなかったんですよね? 最初に取り組んだ研究テーマに、残留応力が関係していました。田んぼや干潟が乾燥すると、網目状の亀裂ができる「乾燥破壊」という現象です。その解析に、PDS-FEMを使いました。写真の左が実験結果で、右が数値解析の結果です。 ──シミュレーションでも、ちゃんと網目状に割れていますね。 試料の層が厚くなると、網目で囲まれたセルのサイズが大きくなるんです。それも再現できました。 一瞬のうちに亀裂が進む強化ガラスの破壊(動的破壊)と違って、こちらは1時間に1センチも進まないぐらいゆっくりした現象(準静的破壊進展)です。その分、残留応力があっても、考えなければならないことが少なくなってモデルが少し簡単になるんですね。その経験があったので、次は強化ガラスの破壊に取り組もうと思いました。