わが国の論文力なぜ失速 第一線の研究者らシンポで激論白熱
ERATOやCREST、さきがけなどはJST「戦略的創造研究推進事業」のプログラム。橋本さんはこれらについて「狭められているとの意識は私にもあり、私が来て(理事長に就任して)から、広げることを徹底的にやっている」とも話した。
シンポジウムでは参加者から質問を募り、いくつかを議論に反映した。一つの質問をきっかけに、話は研究者の給与にも及んだ。「評価が分かる形で給与が出る仕組みを作り、弾力化が必要だ」「経済的理由や将来不安で研究者を断念した人は多い。諦めなくて済む環境にしていく必要がある」などの意見が交わされた。 橋本さんは「成功した人としない人の間に、給料の差がないといけないが、日本の大学や国研ではごく一部の例外を除いてほとんど、ない。私は(理事長を務めた)NIMS(物質・材料研究機構)で差をつけようとしたが、“羽交い締め”にされてできなかった」と生々しい体験を明かした。「また、研究者として成功しなくても、能力を持つ人がアカデミア以外で活躍できる道を用意するのも重要。政府はそれをやろうとしているが、大学に反対する人がいる」と問題視した。
日本に引きこもらず、ダイバーシティーの気運生かせ
お金の話と並んで議論が深まったのは、国際化だ。言語の壁が高いなど、研究者のみならず日本人共通の課題ともいえる。
「日本の研究者は友達作りが下手」と語ったのは、情報通信、情報ネットワークが専門で室蘭工業大学コンピュータ科学センター教授の太田香さん。「日本人は国際会議に真面目に参加するが、コーヒーブレーク(休憩時間)に日本人同士で固まってしまい友達ができない。国際コミュニティーに入れず、国際会議の委員は知り合いに頼むのが常で(日本人は選ばれにくい)。輪を広げるのが大事なのに」。後藤さんが「同感。海外の学会で日本人は固まっている。そして最近は日本人が自分しかいない」と相槌(あいづち)を打った。 五神さんは「科学には国境がなくネットワークが必須。その一角にいて最先端の情報が入ってくるよう論文を書き続け、研究力を維持することが重要だ。手を打たないと10年後には世界から日本が見えなくなる。大学でも優秀な人は、深い議論を常時できるところに集まる。先生同士の議論がほとんどない状況は、極めてまずい」と事態の深刻さを語った。