わが国の論文力なぜ失速 第一線の研究者らシンポで激論白熱
五神さんに続き橋本さんも「『お金が足りないから増やせ』と言うだけでは増えない」と畳み掛けた。「私も自由発想の研究費を増やすべきだと、強く思う。しかし、研究費を増やすなら(公費の)どこかを減らすのであり、減らされる人は反対する。例えば社会保障費を減らしてよいかというと、当然よくない。納得してもらわないといけない。半導体の例では、政策決定権を持つ人や他分野の人も『半導体に注力するのが国の将来に必須だ』と納得したから(公費の巨額投資が)できた。一方、科研費や運営費交付金の増額は、認識が共有されていない。まだまだ私たちにできることがあり、全部そろった段階で初めて、研究者コミュニティーの外の人に理解していただかなければならない」
研究支援プログラム「柔軟でなくなった」の声
国内にはJSTが運用するものをはじめ、さまざまな研究支援のプログラムがある。これらの使い勝手に対する意見も相次いだ。超分子化学が専門で理化学研究所創発物性科学研究センター副センター長の相田卓三さんは「(支援プログラムの)ERATO(エラトー)やCREST(クレスト)が始まった時はフレキシブル(柔軟)にやれたが、その後『最初の約束をなぜ守らないのか』とキツくなった。(支援プログラムの)さきがけは、30~40人のうち1人くらい成功すれば良いと言われ、好きなことができた時代があったが『目標に沿ってやりなさい』に変わった」と指摘した。 五神さんも「私がERATOを始めた1997年当時は『伯楽(馬の優劣を見分ける名人)として天馬を自由に』と言われた。天馬の中に(後に超高精度の光格子時計を実証した)香取(秀俊)さんがいて、最初の研究目的とは違う時計作りへとチェンジした」と振り返った。「財務省の方に『研究とはそういうものだ』と話すのだが、財務省的にはそういうのが一番困り、公的なお金はきちんと執行されなければならない。橋を造るのにれんがが何個要るなどと、きちんと造ってもらうのが(財務省としては)一番よい。そこをどうクリエーティブにやれるかが、日本が勝ち抜くために重要だ」。これには橋本さんが「行政官は真面目なので、筋道を通してきちんと説明すれば分かってくれる」とコメントした。