わが国の論文力なぜ失速 第一線の研究者らシンポで激論白熱
相田さんは若手の留学の効果を強調した。「博士課程の学生を1年とか留学させると、すごく変わる。日本に長年住んで構築されたパーソナリティーを、自分で変えるのは無理。それを作り直すチャンスが留学だ」。国内でも外国人の存在が重要だという。「マインドチェンジするには、日本人だけで議論せず外国人が30%くらい入ると違うのでは。国際公募のポジションにほとんど日本人しか応募してこないのは、すごく心配だ」と指摘した。
ICT(情報通信技術)を用いたインフラ整備「スマートインフラ」分野の先駆者として知られる米カリフォルニア大学バークレー校教授の曽我健一さんは「海外に行くと、自分がマイノリティーであるとの意識が出てくる」と語った。これを受け、太田さんは「ダイバーシティー(人種や性別など属性の多様性)は研究コミュニティーでも気にしていて、1回その中に入ってしまえば日本人は非常に重宝がられ、活躍できる。いきなり海外に出るのが難しければ、学生を育てるため、国内の国際会議に参加するとマインドチェンジできるのでは」と提言した。 これに曽我さんも「米国ではダイバーシティーがパラダイムになりつつあり、日本人が受け入れられやすくなっている。これを利用し国際ネットワークを作っていくべきだ」とアピール。この話は学術界に限らず、あらゆる分野の日本人が活躍するため、時宜を得たアドバイスであるようにも聞こえた。
学生に研究の「わくわく感」を
日本の研究力を将来にわたって高めるには当然、次世代が研究に魅力を感じて職業に選ばなければならない。この議論で印象的だったのが、相田さんの回想だ。「私が研究者になった理由は、一つの実験で予想外のことが見つかり、体が震えて初めて感動したから。研究者になるしかないと、その日に思った」
相田さんはその後、この感動を次世代にも向け続け「希望するなら長く議論して過ごしてきた。学生がやりたいと、変わってきたのを何度も見ている」。一方で「学生には誘惑がたくさんあり、感動を味わう前にいなくなることが結構多い。それを防ぐには、研究職の魅力が必要だ」とも語った。 NIMS磁性・スピントロニクス材料研究センターで上席グループリーダーを務める内田健一さんは「私は『こんなに楽しいことがあるのだ』と博士課程に行くことを決めた。魅力を学生に伝えることは、われわれの重要ミッションだ」と強調。五神さんは「キュリオシティー(好奇心)を持つ人がいなくなるのでは。サイバー空間が高度化してリアルとバーチャルの境界が曖昧になる中で、若者に本当の発見の喜びをかなり意識的に伝えていかないといけない」と強い危機感を示した。