わが国の論文力なぜ失速 第一線の研究者らシンポで激論白熱
その上で「今日の議論を通じ、日本の研究力復活に向けた処方箋を提案したい。国家が行うべきこと、大学や国研(国立研究開発法人)、JSTのような資金配分機関が行うべきこと、研究者やコミュニティーが行うべきことは何か。言うだけでなく、各人ができることをすぐやろう」と呼びかけた。
橋本さんに続いて6人の研究者が実体験を交えて認識を順に語り、約2時間に及ぶパネルディスカッションへと進んだ。
「自由発想、ボトムアップ」の研究費どう確保
最も時間が割かれたのは、やはり研究費の問題だ。基点となったのは「日本ではイノベーションの種が枯渇している」と投げかけた、東京大学薬学部教授の後藤由季子さん(分子生物学、神経科学)の発言だろう。
研究活動を支援する公的な競争的資金は性格上、2つに大別される。政策的に戦略目標を設定し、それに沿って支援するトップダウン型の資金と、科学研究費助成事業(科研費)に代表される、研究者の自由な発想に基づいた研究を支援するボトムアップ型の資金だ。車の両輪のようにどちらも重要と考えられるが、後藤さんは次のように、後者が相対的にやせ細っている状況を問題視した。
「科研費は総額では微増だが、申請が増えたことで実質、大幅に減ったと研究者に体感されている。物価高や円安に加え、論文掲載料や購読料の高騰もある。トップダウンも重要だが、科研費はいまだ注目されていない分野で新しい芽を作るもので、ますます大事だ。成果の予測は難しいからこそ、幅広い支援が重要。運営費交付金などの基盤経費の増額、科研費の倍増を」。よくいわれる「基礎科学の重要性」の論点にも連なる話だろう。 これを受け、理化学研究所理事長の五神(ごのかみ)真さんが見解を語った。専門は光物性や量子エレクトロニクスで、2015~21年に東京大学総長を務め、初の大学債を発行するなど経営手腕が注目された。「後藤先生のおっしゃることは当然だが、科研費を倍にという要求は多分、今の予算要求の仕組みで、省庁縦割りの議論ではできない。しかし、国家スケールの戦略をきちんと打ち出せれば(その限りではない)。半導体に桁違いの投資をしたくらいの、大胆な発想転換により機運が高まれば、手は打てるかもしれない」とした。