自動車業界で本格化するAI活用 ソフト・自動運転・材料など開発に不可欠
バズワードは「AIエージェント」
2025年は生成AIによる「AIエージェント」がバズワードになると見られている。車載向けでは、フォルクスワーゲン(VW)グループやメルセデス・ベンツが先行して生成AIを活用し、乗員との対話型のコミュニケーションを実用化している。 音声認識機能を備え、目的地の検索や設定が声でできるカーナビはすでにあるが、今は現在は生成AIを用い、対話形式で操作する。例えば「寒い」と言えば、システムが車内の設定温度を自動で上げるといった具合だ。車載カメラを使い、車両周辺などの情報も乗員に提供するアシスタントサービスなど、生成AIの活用領域は広がる。 マイクロソフトは、生成AIのエージェント機能を使い、完全自動運転車が何を認知し、どう振る舞うかを乗員に伝える技術を開発中だ。いくら技術が進歩しても、ブラックボックスのままだと人は不安や不信を抱く。AIエージェントを使い、自動運転車が何を認識し、どういう挙動をしようとしているのかを乗員に伝えれば、こうした不安を減らせるというわけだ。 このように、AIが持つ課題の一つは、その制御に至った理由が人には分からないことだ。特に事故を想定した場合、過失割合の算定や製造物責任を判断する上で、完全自動運転車にAIを搭載するリスクは高くなる。 シリコンバレーのトヨタ・リサーチ・インスティテュート(TRI)でAI研究を続けてきたギル・プラットチーフ・サイエンティストは「なぜAIがそういう決定をしたのか、その説明について研究が進んでいる国もある。AIについては技術開発を競うのでなく、情報を共有化していかなければならない」と訴える。生成AIを活用した「説明可能なAI」は、特に自動運転技術に求められる機能と言える。 もっとも「エンド2(ツー)エンド」(E2E)と呼ばれるAIによる完全自動運転車の実用化を目指すスタートアップ、チューリングの山本一成CEO(最高経営責任者)は「自動運転車は挙動を説明できないから許せないということにはなっていない。完全自動運転はルールベースでは実現できない。挙動を説明できる、できないではなく、圧倒的に安全な自動運転車にすることが重要だ」と語る。 同じくAIを活用した完全自動運転に前向きなティアフォーの加藤真平社長は「自家用車の自動運転『レベル4(特定条件下における完全自動運転)』を実現できると確信しているのは生成AIがあるからだ」と言い切る。従来のAIは予測や分類が得意だが、生成AIは〝創造〟ができる。加藤社長は「言語や画像を作り出すことができるなら運転もできるはず」という。 生成AIを活用した自動運転車は、高価なセンサー類を減らすことができる。カメラと大規模コンピューターだけで高度なADASを実現しているテスラも、こうした考え方をベースに、AIを搭載したロボットカーの実用化を目指している。 販売の現場でもAIの活用が進む。輸入車ディーラーのフォーシーズンズが運営する、比亜迪(BYD)の販売拠点(大阪府吹田市)では、3DのAIアバター(分身)「テラ」が営業員に代わり車両説明などを担当している。チャットボットが購入に関する相談にも応じるなど、接客の一部を担って従業員の業務負担の軽減を図っている。 急速に進化するAI。活用する企業は着実に増えているものの、世界的みると、日本は遅れ気味だ。 情報通信白書(24年度版)によると、国別AIランキングで日本は21年が11位、22年と23年が12位で、インドやイスラエルよりも下位だ。データサイエンティスト協会による調査では、生成AIを導入している日本企業は5.4%にとどまり、米国(27.2%)などと比べて大きく出遅れている。AIの導入や活用に二の足を踏んでいることも、日本企業が世界で勝てなくなっている理由かもしれない。 技術革新が進むAIは、利便性が高い半面、知財や人権侵害など倫理上の問題や安全保障上のリスクも抱えており、欧米を中心に規制強化の議論も進んでいる。ただ、AIが生産性を高め、人が担うべき仕事に集中させてくれることは確かだ。少子化による労働人口の不足が深刻な日本企業にとっては、これを補ってくれる可能性もある。 AIをどう活用していくかによって企業の生き残りを左右する時代は、すぐそこに迫っている。