AI全盛時代、観る側も「写真とは何か?」を問われる写真展「WONDER Mt.FUJI 富士山 自然の驚異と感動を未来へ繋ぐ」
「AIの時代、写真は観る方の姿勢が問われる」という太田さん。 「絶景」とは、被写体の手前に遮るものがない場所からの画角が選ばれることが多いが、富士山の手前に電線が写りこんだままの写真もあった。「邪魔なものが簡単に消せてしまう今。本来〈真実をありのまま写す〉のが写真であるなら、この時代にこの場所から電線が見えているというのは歴史の資料ともいえる。将来、電線がすべて地下に埋まってしまったらこの景色はなくなってしまうのだから」と太田さんは紹介する。 野辺地さんの写真に対しては、「カナダ大使館の展覧会を見て声をかけました。撮影する自分を景色が受け入れてくれるまで待つ、距離感や謙虚さに惹かれました。池の鯉をわざと朽ちた塀越しに撮影したり、富士山を撮るのに飛行機の窓枠を入れたりする視点が面白い」と語った。 一番印象的だったのは、「富士山らしきもの」が写りこんでいる、昔の日本人の記念写真をコラージュした作品。家族写真もあれば、合同ハイキングのような写真も。ポーズや髪型、服装に時代が反映されている。フェイクやAI写真へのアンチテーゼでもあり、自分が撮影した写真は一枚も入ってない。技術上どんな写真も撮れるようになる時代「選ぶ」ということも写真家の個性になるのかもしれない。
「世界で行ったことのない場所がない」と言われている写真家のコーナーへ。日本を全く撮影していないというが、今回はわざとスマホで撮った荒い富士山を1枚提供。そのほかは、チベッ仏教の聖地カイラスで五体投地をしている人々の作品を展示し、霊峰としての富士山を、他の霊峰との対比で見せていた。 富士山付近の「ロードキル」に一石を投じた作品も。年間2万頭もの動物が交通事故で亡くなっているそうで、事故に遭った鹿を、古い現像方法で荘厳に表現していた。壁からぽろりとおちている1枚は、社会は新陳代謝をくりかえしていることを表現していて、動物が亡くなることへの怒りや悲しみ、安らかに昇天してほしいという気持ちが込められているという。 「技術が発達しても、元々あった技術を継承していくことは新しい技術を産むときにとても重要だ」と太田さんは語る。 最後の展示は、富士山のなりたち、過去現在未来を表現した作品。富士山が噴火した時にできたかもしれない水晶を磨いて作った、透明度が高くないレンズを通して撮った富士山と、地殻のプレートの動きを表現した作品、そして溶岩の中を覗き込むと、何かが見える作品で空間が構成されていた。 不都合があるものを内にとりんでいく。今、大切なものを除去することで、世界観は狭まっている。現代は〈多様性〉といいながら均等化されてることがいかに危ういのか、を表現しているという。 日本人にとってポピュラーな「富士山」の写真を通じ、いろんなものを問いかけられる写真展。まっさらな気持ちで、18の「WONDER」を体験してみてはどうだろう。 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 霊峰、富士。 天に向かって聳え立つその姿は“自然の驚異と感動”=WONDER を 私たちに指し示しています。 170年前、初めて富士山が写真に撮られて以来、この特別な山は、“神聖なる存在”として、また、“あるべき美の姿”として写され続けてきました。 人類が今、地球から宇宙へ、現実世界から仮想世界へと、その一線を超えようとする時、富士山は現実世界の錨として、世界中の人々に大切な何かを問いかけているように感じます。 『WONDER Mt. FUJI』は18人の卓越した写真家たちが、 自身の目を通して富士山のメッセージを紡ぎ出した展覧会です。 参加写真家(展示構成順) 山内 悠YAMAUCHI Yu 広川泰士HIROKAWA Taishi 公文健太郎KUMON Kentaro 十文字美信JUMONJI Bishin ユリア・スコーゴレワYulia SKOGOREVA 木村 肇KIMURA Hajime エバレット・ケネディ・ブラウンEverett KENNEDY BROWN 西野壮平NISHINO Sohei 大山行男OHYAMA Yukio クリス・スティール=パーキンスChris STEELE-PERKINS サラ・ムーンSarah MOON ココ・カピタンCoco CAPITN ドナータ・ベンダースDonata WENDERS 野辺地ジョージGeorge NOBECHI 田多麻希YOSHIDA Tamaki 菅原一剛SUGAWARA Ichigo 野町和嘉NOMACHI Kazuyoshi 瀧本幹也TAKIMOTO Mikiya キュレーション 太田菜穂子(KLEE INC PARIS TOKYO) WONDER Mt.FUJI 富士山 ~自然の驚異と感動を未来へ繋ぐ~ 詳細はこちら 2024.6.1(土)―7.21(日)
「婦人公論.jp」編集部