コアラがもたらす動物園の未来(レビュー)
コアラのことが全部わかる一冊『すごいコアラ! 飼育頭数日本一の平川動物公園が教えてくれる不思議とカワイイのひみつ』(新潮社)が刊行された。 1日20時間も眠る生態から、赤ちゃんだけが食べる驚きのもの、飼育員が出産に立ち会わない理由など、コアラのすべてがまとまった本作に魅了されたのが、お笑いコンビ「ココリコ」の田中直樹さんだ。 意外だったのが芸能界イチの動物マニアで知られる田中さんが、まだ平川動物公園に行ったことがなく、コアラが繊細な生き物だということも本書で初めて知ったといいます。 本書『すごいコアラ!』の魅力と動物園の楽しみ方を綴った書評を紹介します。
田中直樹・評「コアラがもたらす動物園の未来」
昔、オーストラリアでコアラを見たことがあるんです。残念ながら野生のコアラを見つけることはできなかったんですけど、動物園で抱っこをさせてもらいました。 その時、「しっかり抱かないと危ないですよ」と、飼育員さんに言われたのが印象的で。コアラって爪が鉤状になってて鋭いので、抱き方を間違えればケガする可能性もあるし、コアラにも負担がかかる。だから、両者にとって、ベストな形でちゃんと抱いてあげる必要があります、と念押しされたんです。 触れ合える時間もきっちり決まっていて、コアラにストレスがかからないように、飼育員さんがケアされていることも十分伝わりましたが、それ以上にコアラって繊細な生き物なんだな、ってそこで初めて知りました。 残念ながら、平川動物公園にはまだ行ったことがないのですが、この本には「飼育員さんがコアラのすべてに関わる」と書かれていて、コアラの飼育だけでなく、エサであるユーカリの栽培、採取、年間の管理など、やることがいっぱいあるそうです。それぞれの飼育園でのやり方、関わり方はあると思うんですけど、繊細な生き物であるからこそ、ここまでコアラたちに向き合って、日々業務にあたっているのはすごい魅力的でした。 コアラの出産に関しても、「余計な刺激を与えないために、飼育員さんは立ち会わない」とありましたが、そういう自然に近い状況を作ることは、ある意味とても勇気がいることだと思うんです。「出産の際に、何かあったらどうしよう」って、心配じゃないですか。そこも、コアラ飼育40年の歴史とその出産に関してはこれがベスト! という経験の積み重ねがあるからこそできるわけで、飼育頭数日本一という成果に表れているのでしょう。 当然、動物園には飼育していく責任がある。だとしても、「ここはやりますけど、こっちの分野に関しては、これ以上は踏み込みませんよ」みたいな、飼育員さんとコアラの距離感が素敵だなって思いました。動物園の中においても、人間と生き物の線引きってあると思うんです。 現在は、国内のコアラの頭数は保たれているから大丈夫かもしれませんが、絶滅危惧種である以上、いつ何があるかわかりません。動物園で子孫を繋いでいくことには大きな意味があって、そのひとつとして、野生ではわからないコアラの生態のこととか、詳細に記録できるじゃないですか。動物園が繁殖の歴史を記録することによって、世界中のコアラに還元できることってあると思うんです。だから、飼育頭数日本一で繁殖のペースも速い平川動物公園が担う役割は非常に大きいはずです。 僕は今、ありがたいことに大好きな動物園と関わる仕事が多くて、行くたびにわくわくします。普段見ることができない生き物たちに会える楽しみもあるんですけど、それ以上に「生き物から放たれるエネルギー」を感じるのが好きで。特にトラやライオンの猛獣は、目の前にすると放たれる「気」が、とても強くて圧倒されます。日本は動物園の数が多く、園それぞれの個性や特徴、動物同士の多様性があって、僕はそこが面白いなって思います。だからこそ、コアラ飼育頭数日本一の平川動物公園の展示の仕方、コアラと接する飼育員さんにはぜひ会いに行きたいです。 あとは、極端な話ですけど「今日は足だけに注目して見てみよう」とか、何かにフォーカスした観察をすることもあります。例えば、オオアリクイは爪が長いので、歩くときに手のひらを傷つけないように、その爪を内側にしまうスペースがあるんですよね。このナックルウォークという歩き方をじっと見ちゃう。そんな僕がコアラを観察するとしたら、夏場の暑い時期は、少しでも涼しいところを探すと聞いたことがあるので、個体ごとにどんな場所で休んでいるのか、もっと言えば、休んでいる木の表面温度は何度くらいなのかまで気になっちゃいそうです。 同様に、雨の日の動物園も魅力的で、普段とは違う生き物たちの姿を見ることができるんです。ある動物園では、いつもよりゾウが動き回っていたり、ずっと雨に打たれても気にしないロバなんかも見たことがあります。 さらに言えば、今は動物園の環境展示にも注目しています。生き物たちがより活き活きと生活できるように、本来の生息域と同じ草木を育てている園もあれば、動物同士の関係性を見ることができる混合展示をしている動物園もあって。平川動物公園の、ガラス越しでないコアラの展示方法もそのひとつ。動物園ごとの環境展示にも注目すると、また違う楽しみ方ができるんです。 ちなみに僕は動物園に行くと、好きな動物をずーっと観察するよりも、園内すべての動物を見てまわりたい派です。だから時間が限られている時は、生き物と心が通じ合ったと思ったら、次の動物へ移動します。自分の感覚なんですけど、大体3回、目が合うのを目標に。あ、でもコアラって一日20時間寝てるから、3回も目が合うのを待つのは難しいかな(笑)。 [レビュアー]田中直樹(芸人) たなか・なおき 協力:新潮社 新潮社 波 Book Bang編集部 新潮社
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