考察『光る君へ』43話「そもそも、左大臣殿に民の顔なぞ見えておられるのか?」「賢人右府」実資(秋山竜次)の面目躍如、きっとすごい勢いで日記を書く
「物語の良心」行成と実資
道長は「二度にわたる内裏の火事は、天が主上の政にお怒りであるという証であると思われます」と、自分の孫である東宮・敦成(あつひら)親王(石塚錬)に譲位するよう迫る。三条帝は怒りを露にし、道綱(上地雄輔)に「そなたもそう思うておるのか」と問うた。道綱が「はっ」と答え、帝の更なる怒りを買う。これまで陣定で大切な評議でさえ「だよね!」「同じく」だけで乗り切ってきた道綱の癖が出てしまった。 『小右記』はこのときのことを「早く譲位させたい道長はそう言うだろうが、道綱がなぜ同意するのか。愚かだ」と記しているが、この史実を描くために「だよね!」「同じく」場面をやってきたのであれば、積み重ねが細かいなと感心してしまう。 譲位などせぬと道長の要求をつっぱねた三条帝だが、視力・聴力がともに低下している。長和3年の時点で38歳。隠していたのに道長に気づかれた……。そのときの音楽、エレキギターが、ギャァアン!! と強烈だ。不穏な音楽とともに四納言と道長の密談。帝はそんなにお悪いのかと驚く斉信(金田哲)、そのために譲位とはお気の毒にございますなと同情する行成(渡辺大知)、政がおできにならねば致し方あるまいと厳しい表情で言う公任(町田啓太)、公卿・参議たちの譲位への機運を高めておくと言う俊賢(本田大輔)。それに頷く道長の顔に、先週までのような苦しさはない。 川辺の誓い……俺が生きるならまひろが共に生きてくれるのだということが強い支えとなり最高権力者・藤原道長としての人生を邁進させている。 しかし、道長の周囲にいる人間の苦しさはそのままだ。特に行成は、権謀術数渦巻く宮仕えに疲れたのか、ついに都から離れたい、大宰権帥(だざいのごんのそち)として大宰府に行きたいと道長に願い出た。このドラマにおいては、行成と実資(秋山竜次)が視聴者からも信頼される「物語の良心」として存在しており、彼らに見放されたら一定のラインを越えたのだろうなと思わせる。 大宰府に行きたい……己の財を増やしたいからとの方便であろう行成の言葉を聞いて「考えておく」と答えたあとの、道長の後ろ姿が切ない。
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