考察『光る君へ』43話「そもそも、左大臣殿に民の顔なぞ見えておられるのか?」「賢人右府」実資(秋山竜次)の面目躍如、きっとすごい勢いで日記を書く
宋から取り寄せた薬
三条帝が何か薬を服用している。夫の体調を心配して様子を見に来た皇后・娍子(すけこ)に「宋から取り寄せた薬だ。これを飲めば目も耳も治る」と説明する。宋から取り寄せた薬とは「金液丹(きんえきたん)」「金丹」だ。 各種の鉱物を原料としたもので古代中国では不老長寿の万能薬とされた。が、原料には辰砂(赤色硫化水銀)やヒ素などが含まれており、日本最古の医学書『医心方』に「万病に効くが養生向きの薬ではないから多用、長期の服用注意」といった意味合いの但し書きがされる薬だった。 道長に毒を盛られるのではと懸念した三条帝が自ら取扱注意の薬を飲み、これで治ると皇后とともに喜ぶ姿に胸が痛む。 敦明親王(阿佐辰美)が、父・三条帝に、自分と仲の良い兼綱を蔵人頭にしてやってほしいと頼みにきた。兼綱はもともと道長が推している人物であるし、息子に懇願された帝は、嫡男・資平を蔵人頭にという実資との約束を反故にしてしまった。 「もう二度と私を頼るな!」と帝への怒りのままに墨をする実資、すごい勢いで日記を書くんだろうな……。
倫子はとうの昔に気づいている
順風満帆に見える道長の一族だが、早急に解決したい問題が生じていた。道長の嫡男・頼通の妻、隆姫女王に子ができない。道長は隆姫に子を産むよう要求した。現代の感覚では、頼通の「私と隆姫は十分幸せにやっております」という言葉通り、そんなの問題ではないだろうと頼通夫婦に味方したくなるが、母・倫子(黒木華)も、もう一人妻を持つよう促す。 男が複数の妻を持つことについて、諦観したような表情で考えを述べる黒木華の芝居が圧巻だった。 倫子「私は殿に愛されてはいない」「殿が心から愛する女がどこぞにいるのだと疑って苦しいこともありましたけれど、今はそのようなことはどうでもよいと思っております。彰子が皇子を産み、その子が帝になるかもしれないのですよ。私の悩みなど吹き飛ぶようなことを殿がしてくださった」 自分が道長に女として愛されていないことを、倫子はとうの昔に気づいている。「どこぞにいる」とぼかしているが、夫が心から愛する女はまひろだということを、36話の祝宴で確信したのかもしれない。でも、もうそんなことは悩んでいないと……。倫子は中宮と皇太后の母であり、東宮の祖母、いずれ帝の祖母となるかもしれない。入内しないまま、この時代の女としての栄華を極めようとしているのだ。それに比べたら長年の物思いと嫉妬の苦しみなど、なんてことない……夫婦で社会的に成功したのだから、妻としての個人的な悩みなど吹き飛んだということですか? 本当に? と思ったら、 倫子「ですから、たまには私のほうもお向きくださいませ。うふふふふふふふうふふふ」 笑い声にダイヤモンド並みの硬さを感じる。この賢く誇り高い女性が、貴族の妻としてのたしなみを忘れることなどない。同時に蔑ろにされたという思いを忘れることもないだろう。 気圧されたのち、笑って濁す道長だが、君、こういうときに「お前のことはもちろん愛している」とか「大切に思っている」とか、嘘でも言わないよね! 嘘でしょと見抜かれてもいいんだ、取り繕うとする姿勢を見せるだけでもマシなんだぞ! その態度でいいんか!?
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