<時差ボケ>で腸内環境が激変?医学博士「睡眠障害と肥満や大腸がんの間には関連性があることが判明していて…」
◆睡眠障害が引き起こす影響 では、ヒトにおいても腸内マイクロバイオータは日内変動するのでしょうか? 解析の結果、腸管内に存在するバクテロイデス門パラバクテロイデス属の細菌が昼間(ヒトでは活動期)に増加し、夜間(ヒトでは休息期)に減少していました。 一方、ファーミキューテス門ラクノスピラ科の細菌が日中に減少し、夜間に増加するという変動が見られました。 つまり、菌の種類は異なりますが、ヒトにおいても、マウスで観察されたように腸内マイクロバイオータは日内変動していて、また腸内代謝物も日内変動していたのです。 ヒトで睡眠障害を引き起こすと、腸内マイクロバイオータの組成にどのような影響が起こるのでしょうか。 まず、8時間程度飛行機で移動してもらうことで、ヒトの睡眠障害(つまり“時差ボケ”)を引き起こします。 飛行機に搭乗する前日、搭乗1日後、搭乗2週間後の糞便を回収し、腸内マイクロバイオータの組成が解析されました。
◆睡眠が変われば腸内も変わる 搭乗前日と比較して搭乗1日後には、肥満に関係するといわれているファーミキューテス門の細菌が増加していましたが、搭乗2週間後には、搭乗前日のレベルにまで減少していました。 一時的な睡眠障害によって変化した腸内マイクロバイオータの組成は、2週間ほど経てば元に戻ると推測できます。 次に、搭乗前日、搭乗1日後、搭乗2週間後のヒトの糞便を無菌マウスに移植する実験が行われました。 その結果、搭乗1日後の糞便を移植されたマウスでのみ、他の糞便を移植されたマウスと比較して体重が増加したのです(1-5)。 これらのことから、ヒトにおいても睡眠障害は腸内マイクロバイオータの組成を変化させるだけでなく、肥満や糖尿病といった疾患、つまりメタボリックシンドロームを引き起こす原因となる可能性があることがわかったのです。 ・参考文献 1-1 Thaiss CA et al., Cell 159, 514-529, 2014. 1-2 Leone V et al., Cell Host & Microbe 17, 681-689, 2015. 1-3 Zarrinpar A et al., Cell Metabolism 20, 1006-1017, 2014. 1-4 Liang X et al., Proceedings of the National Academy of Sciences of the United States of America 112, 10479-10484, 2015. 1-5 Thaiss CA et al., Cell 159, 514-529, 2014. 1-6 Goodrich JK et al., Cell 159, 789-799, 2014. ※本稿は、『「腸と脳」の科学 脳と体を整える、腸の知られざるはたらき』(講談社)の一部を再編集したものです。
坪井貴司
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