スポーツブランド・Onが認知ゼロから愛されるブランドになるまで。駒田博紀が語る「熱を生むブランディング」
人は、マーケティングされたくない
今、なぜOnが支持されるのか──。駒田さんは、「距離を感じさせない親近感」にその理由があると分析します。 「ブランドが非常にフレンドリー」「代表がこんなに一緒に走ってくれるブランドはほかにない」とよく言われます。 たぶん人は、誰かに何かを売り込まれたくないし、マーケティングもされたくない。求めているのは、人と人との付き合いなんだと思います。 だから私たちは、目の前の人と向き合うことを大切にしてきました。その人の心に届く言葉を探し、行動で示すと、その人が周りに広げてくれる。そんなサイクルを何度も目撃してきました。 従来型のマーケティングでは、人を属性でセグメント分けし、最大公約数的なメッセージを投げかけます。しかし、「たった1人と向き合うことを、何千回、何万回と繰り返す。時間はかかるかもしれない。でも、薄まった届かないメッセージを投げ続けるよりは、ずっと速い」と駒田さんは指摘します。 Onのようなやり方は数字で表せないし、今のテクノロジーでは追えないから、世の中のマーケターと呼ばれる人はやりたがりません。 しかし当時、街で1日1回も見かけなかったOnが、今では見ない日のほうが少なくなった。それが、この方法の価値を証明しているのではないでしょうか。
スポーツとビールがつなぐ、新しいコミュニティ
そんな駒田さんが、なぜOnを退き、ビール醸造という新たな道を走りはじめたのか。実は、この挑戦もOnでの経験が深く関係しているといいます。 実はビールも苦手だったんですよ。ランニングも苦手だったし、どうも苦手なことを仕事にするクセがあるらしいですね(笑)。 ビールというと、飲みの場などで会社の愚痴や上司の悪口を言うために「とりあえず生」を頼む、そんなネガティブなイメージがあったからかもしれません。でも、Onとの出会いが変えてくれた。 トレーニングも兼ねて、会社から走って帰宅したある日のこと。汗を流したあとの一杯が、驚くほど美味しかったのだとか。 愚痴のためのビールから、自分のちょっとした成長を祝うための、祝福の一杯に変わった。だって、運動したあとのビールってめちゃくちゃうまいですからね。 そこから、Onジャパンで「Run & Beer」というイベントを開催するようになりました。 駒田さんはコミュニティの中に入ったことで、走る人のリアルを知りました。ランナーの多くは、自己ベストを出したい、レースで勝ちたいというよりは、ビールがうまい、ご飯がうまい、友達をつくりたい…そんな気持ちで走っているそうです。 ならば、人と人とがつながって一緒に笑顔になれるような、そういうビールとスポーツのカルチャーをつくってみたい。その思いが、クラフトビール醸造所「Yellow Monkey Brewing」という新たな挑戦の原点となりました。 Yellow Monkey Brewingのミッションは、「ビールとスポーツを通じて人と人をつなぎ、笑顔を広める」こと。OnもYellow Monkey Brewingも、本質は同じなんです。
人をつなぐことから、ムーブメントははじまる
セッションの最後、「魂に火が灯る瞬間とは?」という問いに、「人と人をつなぎ、笑顔が広まる瞬間です」と答えてくれた駒田さん。 コミュニティの中に飛び込み、1人ひとりと真摯に向き合う。その積み重ねが、やがて大きなムーブメントとなっていく──。 同じ価値観を共有するコミュニティこそが、ブランドの新しい可能性を切り拓いていくと気づかされました。 BOOK LAB TOKYOで書籍を購入する>> BOOK LAB TALKの記事一覧はこちら>> 聞き手:遠藤祐子/Source: BOOK LAB TOKYO
田邉愛理