外来爬虫類、昆虫などに寄生して「ダニ」が密入国!? 危険な種類も
ハダニの輸入大国、日本
植物寄生ダニのなかでも特に農林害虫として問題となるのがハダニ類です。ナミハダニはハダニ類の中でも増殖力が強くて、農業現場では特に防除が重要な種とされます。
日本には、植物防疫法という、外国からの農林害虫の持ち込みを規制する法律があります。この法律に基づき、輸入農産物や園芸植物などは国際貿易港に設置された検疫所で検査されて、もし、病害虫が付着していたら、輸入が差し止められます。 2003年まで、日本ではナミハダニは立派に検疫対象害虫で、ナミハダニが寄生している農産物や植物は、原則輸入禁止でした。しかしこの検疫制度が非関税障壁、つまり自由貿易の障害にあたると欧米諸国から非難を受けるようになりました。その根拠として、ナミハダニは世界に広く分布するコスモポリタン種で、日本国内にも既に生息している種であり、規制対象とする科学的根拠がないことが挙げられたのです。その結果、日本政府はWTO(世界貿易機関)のルールにも配慮して2004年に本種を規制対象から外すことを決定しています。 このナミハダニの輸入自由化は、生態学的に明らかに大きな矛盾をはらんでいます。たとえ世界的広域分布種といえども地域ごとに遺伝的変異が存在し、薬剤抵抗性という適応形質にも差があるにも拘らず、それを無視して、国外のナミハダニを持ち込むということは防除上の観点からも、極めてリスクの高い行為となります。しかし、こうした貿易摩擦の解決にあたって、そのような生態学的情報はほとんど議論の俎上に上がることはありません。 その後も、2011年春には植物防疫法が改正され、農林害虫の輸入規制緩和はさらに進みつつあります。貿易の自由化という大きな波が、検疫というハードルの低下をもたらしているのです。 このように、4億年も地球上で繁栄して来たダニたちの進化の歴史が、今、人間との関わりの中で、大きく変わろうとしています。ダニの外来種問題を通して、私たちは、経済のグローバリゼーションという止まる所を知らない巨大な潮流がもたらす生物多様性の危機を、私たちは垣間みることができます。 (国立研究開発法人国立環境研究所・侵入生物研究チーム 五箇公一)