「健常者の人も決して意地悪で無理解な訳ではない」仮面女子・猪狩ともかが車いすアイドルとして発信を続ける理由
車いすユーザーも健常者も“違いを思いやる”気持ちと視野を持って欲しい
――車いすユーザーとして日常生活を送る中で、当事者だからこそ気づいたことはありますか? 猪狩ともか: 駅の改札って幅が広いところがあるのって知ってますか? 車いすユーザーやベビーカーを押している方は、広めの改札を使うことも多いと思いますが、一方通行ではないので反対側から人の流れがあるときは落ち着くまで待たなければならず、通過するのに時間がかかります。 実は先日、駅を利用したときに改札で車いすがはまってしまったんです。私も普段は広い改札を利用しますが、普通の幅の改札でも、改札の上の部分をつかめばヒュンっと通過できたりするんですね。その日は急いでいたのですが、広めの改札は反対側からの流れが止まらなくて、普通の幅の改札を通ろうとしたら、思ったよりも幅が狭かったようで車いすがはまって動けなくなってしまいました。すごく恥ずかしくて慌ててしまいましたが、近くにいた方が助けてくださったので事なきを得ました。改札のサイズは全国共通だと思っていたのですが、車いすでは通れないところもあることを初めて知りました。 あと、家探しも意外と大変なんです。今は実家に住んでいますが、都内から離れているので、都心に家があったらいいなと思い、1年ほど前から物件を探しています。でもなかなか見つからないんです。 例えば、「バリアフリー物件」と書いてあっても、外観の写真を見るとエントランスに階段がある物件もあります。問い合わせてみると「部屋の中に段差がないのでバリアフリーと表記しています」と言われました。同じようにバリアフリー物件でもエレベーターがついていなかったり。都内に住んでいる車いすユーザーの友人たちも「血眼になって物件を探した」と言っていました。 ――猪狩さんは以前、仮面女子としての活動を卒業すると表明され、その後撤回されました。この間の心境の変化はどういったものだったんですか? 猪狩ともか: コロナ禍になって私の卒業ライブが延期になったんです。その間に考え方が変わったんですよね。 私の理想は「車いすユーザーとして」とか「障がい者として」という位置づけではなく、普通に当たり前のようにグループのメンバーの中に車いすに乗っている人がいるという状態。車いすに乗っているメンバーがいるかいないか関係なく、いろんな番組や企画に呼んでいただけるっていうのが理想だなと思っていたんです。ライブが延期になって、改めて自分の活動を振り返ったときに「それを一番表現できているのは仮面女子じゃん」って思ったんですよね。そういう見せ方ができる場所があるのに、そこを離れてしまうのはなんかもったいないなって思って、卒業を撤回しちゃいました。 だから今は、仮面女子としての活動をしながら、自分が困ったことや「こうしてくれたらうれしいな」ということがあったときには、できるだけ発信するようにしたいと思っています。そして、健常者の方がいつもより視野を広くして「これは何のために、誰のために必要なものなのか」ということを、少しだけでも意識してくださるようになるとありがたいなと思っています。 ----- 猪狩ともか 1991年、埼玉県出身。管理栄養士の専門学校を卒業後、2014年から芸能活動開始。2017年にアイドルグループ「仮面女子」のメンバーとしてデビュー。2018年4月、事故に遭い脊髄損傷を負い、下半身不随に。リハビリを経て、同年8月に車いすに乗りながらアイドルとして復帰を果たす。現在は車いすでライブ出演・講演活動を行う。東京都より「パラ応援大使」を任命。 文:優花子 (この動画記事は、TBSラジオ「荻上チキ・Session」とYahoo! JAPANが共同で制作しました)