「健常者の人も決して意地悪で無理解な訳ではない」仮面女子・猪狩ともかが車いすアイドルとして発信を続ける理由
2018年に事故で下半身麻痺となり車いす生活を送る、アイドルグループ「仮面女子」のメンバーの猪狩ともかさん。2023年8月で事故後に芸能活動を再開して丸5年となる。芸能界に復帰した当時は「車いすアイドル」と言われることに違和感があったが、今はそう呼ばれることにメリットも感じているという。「健常者だったときに、障がいがある人に寄り添えていた自信がない」と語る猪狩さんに、車いすユーザーになってからの生活の変化や気づきについて話を聞いた。(聞き手:荻上チキ/TBSラジオ/Yahoo!ニュース Voice)
「車いすアイドル」と呼ばれることが“悪いことではない”と思えるようになった理由
――車いすユーザーになられてから車いすについてお話を聞かれることが増えたと思いますが、そうした環境の変化についてはどう感じていますか? 猪狩ともか: 車いすユーザーになった当初、メディアで「車いすアイドル」と表されることが多かったんです。それは今も変わりないですけど、最初の頃はすごく違和感があったんですよね。間違いではないんですが、「車いすユーザーであることを売りにしているアイドル」と聞こえてしまうなと感じていました。そのため、修正してもらえるときは表現を変えてもらうこともありました。 ただ最近は、これも一つの特徴なのかなと思うようになり、そこまで気にしなくなりました。注目していただくきっかけになるなら良いかなと。「車いすアイドル」って一番わかりやすい表現ですし、悪いことではないのかなと思うようになりましたね。 ――そのような心境に変化した理由は何だったのでしょうか? 猪狩ともか: 少し前に、白杖を持った女子高生が主役のドラマがありましたよね。そのドラマをきっかけに点字ブロックの重要性を知った人も多いのではないでしょうか。ちょうどその時期に、動画投稿サイトを見ていたら、点字ブロックの上で踊っている動画が投稿されていて、コメント欄に「そこはダメだよ」という言葉があふれていたんです。メディアを通して知ってもらうことは重要なんだなと思いました。 車いすユーザーとして生活する中で、健常者の方に対して「もうちょっとこうしてくれたら良いのにな」と思うことはあるけど、自分が健常者だったときのことを思い返すと、車いすユーザーの目線で物事を考えられていた自信はないんです。でもそれは、車いすユーザーに対する意地悪ではなく“知らないから“なんだなって思います。だから、周知していくことは大事だなと感じていますね。 ――車いすユーザーになってあきらめたことにはどのようなことがありますか? 猪狩ともか: 入口に階段があるお店とかは、もう選ばなくなりましたね。どうしてもそのお店じゃなきゃいけないときは、車いすを持ち上げてもらって入ったりはしますけど。入口にバリアがある時点で、選択肢から外すようになっちゃいました。 あと、ライブを見に行くことをあきらめたりもしますね。会場に車いす席を用意してくださっていることもあるんですけど、運営会社によっては、「車いす利用時は3日前までに連絡をしてください」って決まっていることがあります。過去に、仕事が休みになって急きょライブに行けるってときがあったんですよ。でも3日前を過ぎていて、土日を挟んでいたから運営会社にも電話がつながらなくて、結局行くことはできませんでした。すごく悲しかったですね。