22年間、2200匹の「路上ネコ」を追い続けた写真家、集大成で500万カットから厳選「心を打つ哀愁」「たくましさ」
「かわいい猫を撮ろうという意識はまったくない」
佐々木さんが撮る路上ネコの写真には大きな特徴があります。それは、いわゆる一般的な「かわいい」猫ではないところ。どの猫も不愛想で、ニヒルでハードボイルドなムードがあり、哀愁が漂うのです。 佐々木「路上ネコをかわいく撮ろうという意識がまったくないんです。それよりも人々のリアルな姿を撮影したストリートスナップに近い。それの猫版というか」 「ストリートスナップの猫版」。確かに佐々木さんが撮る路上ネコたちには、ストリートファッション誌や実話系雑誌に登場するワイルドな人々の表情に通ずるコワモテな雰囲気があります。そして、それは路上ネコたちの暮らしの厳しさを反映したものでもありました。 佐々木「過酷な場面に遭遇する場合もあります。カラスが2羽でペアを組み、1羽が親のしっぽにかじりつくなどちょっかいを出して注意力を奪っている間に、もう1羽が子猫をくわえてさらっていく。一瞬の出来事なので追い払うこともできないんです」 他の動物からの攻撃や自動車による事故など、屋外は危険に満ち溢れています。 佐々木「とはいえ、路上ネコはかわいそうなだけの存在ではないと思うんです。たとえば猫は夜行性でしてね。夜の公園へ行くと、追いかけっこをしたり木に登ったり、もう大運動会です。『お前も一緒に遊べ』とばかりにすり寄ってきます。そんな時間は、彼らなりに楽しいんだろうなと感じるんですよ」 夜になると路上ネコたちの動きが激しくなるため撮影は困難。佐々木さんはシャッターを切ることをあきらめ、公園で彼らとともに過ごすのだそうです。
漁港は路上ネコの楽天地
佐々木さんの新刊『路上ネコ、22の居場所で222匹』は、構成もとても斬新です。「飲み屋街・風俗街」「工事現場・工場」「温泉街」「バイク・自転車」など、猫の「居場所」を22か所に分類し、それゆえ彼らの「縄張り」が可視化できる仕組みになっています。特に巻頭に設けられた「漁港・漁船」の章は、映画『ゴッドファーザー』のようなファミリーの絆を感じるのです。 佐々木「漁港は物置や倉庫が多いため、路上ネコが一族で棲みやすいんですよ。そして漁港の敵は網を喰いちぎってしまうネズミ。そのためネズミを退治してくれる路上ネコと漁師さんは共存関係にあるケースが多いんです。キャットフードをあげて港全体で育てている場所もあります。ただ、エサを与えられているにもかかわらず、魚を盗んで食べちゃう。舌が肥えていて、『あいつら、高級魚しか食いやがらない』という声も聴きました」 陽が昇ると岸壁や物揚場(ものあげば)へやってきて、餌をもらったり、釣り人からおこぼれをもらったり(ときに奪ったり)、日向ぼっこをして過ごす漁港の路上ネコたち。そして眠くなるとかわいがってくれる漁師の船へと移動し、昼寝をする。食住にこと欠かず、誰にも追い払われない漁港は路上ネコたちの楽天地。そして佐々木さんにとっても大切な居場所であり、居住している堺市、大阪南部をはじめ、一年をかけて北海道や九州まで漁港の撮影に出向きます。 佐々木「漁師さんたちから顔を憶えられていて、よく缶コーヒーなどをごちそうになります」 漁師さんにとって佐々木さんもまた路上ネコ一族の一員だと認識されているのかもしれません。