「クライミングは仕事にしたくない」森秋彩(21歳)が五輪後に告白…10代で脚光を浴びたエリートが、“パン屋のアルバイト”を志した深い理由
パリ五輪で大きな注目を集めた選手の1人にスポーツクライミングの森秋彩がいる。 スポーツクライミングの種目の1つ「ボルダー&リード」に出場した森は、得意とするリードでただ一人、完登手前まで登り喝采を浴びるなどして4位入賞を果たした。 【実際の写真】「なぜ届かない…」パリ五輪で物議“高すぎるルートセット”に森秋彩が苦しんだ実際の場面。五輪後にNumberフォトグラファーが撮り下ろした21歳の現在の姿も。この記事の写真を見る。 その活躍とともに、森に注目が集まったのは決勝でリードに先駆けて行われたボルダーにあった。出場選手中最も身長が低い森は、最初の課題で懸命にホールドに飛びつこうとするが届かず、0点に終わった。そもそも届かない位置に設定されたことが「不当」だと国内外から批判が湧き起こり、「差別では」といった声も渦巻いた。 帰国してひと月あまり。森本人はその出来事をどう捉えているのか。そして初めての大舞台に臨んだ心境と終えた今の思い、競技に専念する選手が多い中で学業とアルバイトに取り組みながら続ける理由を知るべく、茨城県を訪ねた。《NumberWebインタビュー/全2回の前編》 ◆◆◆ 「オリンピックは大きなプレゼントをもらえた大会でした」 森秋彩は言う。 その言葉には、競技人生の信念が込められていた。 森にとって、パリ五輪は初めて出場する大舞台だった。昨年の世界選手権では銅メダルを獲得するなど数々の活躍を続ける森には、メダル候補としての期待も寄せられていた。 「ふだんの大会よりも不安がないくらいでした」
「生きていることが辛いな、と思っているときもあった」
初めての出場で大きな期待が寄せられれば、たいていの選手は緊張や重圧に押しつぶされそうにもなるが、森の場合、それはなかったと言う。パリに着いてからの過ごし方にも表れていた。 「日程的に男子も女子も午前中でほぼほぼラウンドが終わるので、午後は割と自由行動が多くて、その後母と一緒にご飯を食べたり、観光したり、ちょっとぶらぶらしたりしたんです。とりあえず凱旋門やエッフェル塔など主要なところをめぐって、個人的にはモンマルトルの丘の上から見たパリの市内がきれいでした。そうして過ごしていたのもリラックスできた一つの理由だと思います」 そこにはオリンピックに臨むにあたっての姿勢がかかわってもいた。 「私は行く前から勝ちに行くというよりも、オリンピックに出ることそのものが目的で、パリを楽しもうって思っていました。けっこうクライミングが楽しめなかったり、生きていることが辛いな、と思っているときもあったから、まず自分がオリンピックに出るということだけで自分の成長を感じていたので、オリンピックに来られただけで偉いなって自分を認めていた部分もありました」 「生きていることが辛い、と思っているときがあった」。森はそう言った。
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