激震の監督解任から1年 なぜ4月就任の前駒大コーチが立大を箱根予選1位に導けたのか
秋の風物詩である箱根駅伝予選会。今年は10月中旬にもかかわらず強い日差しで気温が上昇し、過酷なレースで棄権などの波乱も起きる中、1位で本戦を決めたのは立大だった。前々回は55年ぶりの箱根出場を決め、前回は大会直前に監督が解任される激震を乗り越えて100回大会のメモリアル切符獲得。今年は、駒大コーチを経て4月に就任したばかりの高林祐介監督(37)が“大八木イズム”も参照しながら新しいチームをつくりあげる途上で、3年連続の箱根路に導いた。 「ちょっとビビってます」。レース前夜、高林監督が持つ電話の先には、母校駒大の大八木弘明総監督(66)がいた。大一番を前に主力の一部を欠くなど不安に襲われたが、今年3月まで薫陶を受けていた恩師から「後半5キロが勝負だぞ。暑いからって前半のペースが遅すぎてもダメだよ」と助言をもらい、吹っ切れた気持ちになった。 総合優勝経験もある中大、明大、順大、東海大、日体大など強豪も立ち並ぶ中、堂々のトップ通過。就任早々、指揮官と選手が同じ方向を向いていなければ出せない結果といえる。「(監督で)初めてなのでホッとした。選手が本戦でシード権(10位)を目標にしているので、予選会は上位3番に目標を置いた。ようやくスタートラインに立てた」と胸をなで下ろした。 コーチとして駒大で指導していた今春、再建を目指す立大から監督のオファーがあった。急な話で迷いもあったが、相談した大八木氏から「立教に行け」と一刀両断され「元々チャレンジはしたいなと思っていたが、背中を押してもらった」と新天地に飛び出した。 名将から受けた影響は大きい。“男だろ!”で知られる叱咤(しった)はもちろん、学生に寄り添い主体性を持たせる指導法は血肉となっている。ただ、母校ではない地で指揮を執るとあって、独自の文化やカラーに合わせることに骨を砕いた。「コーチ経験はあるので(指導に)ある程度裏付けはあるが、チームが異なるのにそのままやったら強くなるわけではない」。学生に上から指示するのではなく、選択肢として「こういうやり方もあるよ」と提案するやり方で話し合いを重ね、従来のスピード重視に加え、駒大流の距離走も増やした。 主将の安藤圭佑(4年)は“駒大イズム”について「男だろ!と言われたことはない」と笑いつつ、練習メニューなど「自分たちのレベルや色に合わせた形で取り入れてもらっている」と説明。また、新体制の象徴の一つは意外にも学生寮に導入したという宅配ボックスだといい、時間を気にせずに荷物を受け取れることで練習や学生生活に集中できる。指揮官と部員によるコミュニケーションのたまもので、安藤は「細かなところを少しずつ変えている。みんなも生活していて(課題を)感じる部分はあるので、少しずつ改善していけたら」と語った。 立大は半世紀ぶりの箱根路となった前々回の18位に続き、前回14位と躍進中。監督交代の予期せぬ出来事もあったが、強豪駒大の“遺伝子”を注入された新チームが台風の目となれば、正月がさらに面白くなりそうだ。(デイリースポーツ・藤川資野) ◆高林 祐介(たかばやし・ゆうすけ)1987年7月19日、三重県出身。学生時代は駒大で主力として活躍し、3年時には箱根駅伝8区で区間賞を受賞した。卒業後はトヨタ自動車で実業団選手として活躍。22年からは母校駒大でコーチを務め、24年4月に立大の駅伝部監督に就任した。182センチ、62キロ。