クモの糸から防弾皮膚、牛の糞からファッション、オランダ人「バイオアーティスト」が生み出すイノベーション
人を集めるときに大切なこと
いいアイデアを思いついても、やみくもに専門家にアプローチするだけではうまくいかない。エサイディ氏によれば、プロジェクトに協力してもらうためには、「ギブ・アンド・テイク」を考慮する必要がある。 「それぞれのステークホルダーがどんなことに関心を持っているかをよく聞くことです。彼らはそのプロジェクトから何を得られるか、どうやれば彼らと繋がれるかを考える。双方の共通点を探すのが第一歩です。 例えば、防弾皮膚のプロジェクトで、ランディ教授は自分たちの作った素材が人間の皮膚の細胞にどう反応するかを見られるし、ライデン大学の皮膚科医は皮膚細胞の新しいキャリア(担体)を研究できるし、弾丸メーカーにとっては、人間の皮膚への射撃は興味深いものでした」 もちろん、すべてがスムーズにいくわけではない。若きアーティストであったエサイディ氏が専門家に協力を求めたとき、「気が狂っているのでは?どうしてそんなものを作る必要があるのですか」という答えも多数返ってきたという。しかし、一方では「Go!」と背中を押してくれる人もいた。 「どこかの宣伝文句みたいですけど、『You just do it(やるしかない)!』(笑)。1つのドアが閉まれば、別のドアを探す。あとは人の目を気にせず、目標を持って自分の道を進むことですね」
地球温暖化対策からホームレスの社会復帰まで
現在、エサイディ氏はバイオベンチャー企業「InSpidere(インスパイダー)」のCEOと、「アートビオ・ラボラトリーズ」のリーダーとして活躍する。 インスパイダーでは防弾皮膚とメスティックの知的所有権を持ち、引き続き研究に取り組んでいる。防弾皮膚については、「防弾」というよりも、大きな面積の強靭な皮膚を作りだすことに注力しており、火傷で損傷した皮膚への移植を目指しているという。 メスティックについては本来、すでにTシャツなどが量産されているはずだったのが、政府の環境政策の変化に影響を受け、資金計画が滞った。現在は、インドや中国といった衣料製造の盛んな国で既存の工場や人材を使って、新素材のアパレルを量産するための計画を進めている。