脳ミソも溶け出すものすごい高揚感! フェラーリF12ベルリネッタはF1エンジンの音がした!【エンジン・アーカイブ「蔵出しシリーズ」】
底知れない加速感に血の気がひいた!
【エンジン・アーカイブ「蔵出しシリーズ」】ご存じ中古車バイヤーズ・ガイドとしても役立つ雑誌『エンジン』の過去の貴重なアーカイブ記事を厳選してお送りしている人気企画の「蔵出しシリーズ」。今回は、2013年5月号に掲載したフェラーリF12ベルリネッタのリポートを掲載する。10月2日に最新の12気筒フェラーリ、12チリンドリのロード・インプレッションが公開されるのを前に、フロント・ミドシップに12気筒を搭載する後輪駆動車こそフェラーリの伝統であり、その血筋を引いたフラッグシップ・クーペのF12ベルリネッタが日本に上陸した当時のリポートだ。 【写真15枚】12気筒をフロントミドに搭載する後輪駆動フェラーリ、F12ベルリネッタの詳細画像はこちら ◆まるでライトウェイト・スポーツ 村上 いやぁー、久々にもの凄いクルマに乗った、という強烈な印象が身体から抜けないよ。もう、走り始めて5mも行かないうちに、あまりの衝撃に口がポカンと開いてしまった。軽い! ステアリングもペダルもクルマの動きも、ドライバーに伝わってくるすべての感触が信じられないくらいに軽快だ。フロントに6.3リッターのV12を載せる4.6m級の大型クーペなのだから決して車重が軽いわけがない。なのに、まるで、ライトウェイト・スポーツカーのような軽やかさだ。 齋藤 ステアリング・コラムやペダルの取り付け剛性が高いから、その操作の軽さがなおさら強く印象に残る。いかにも精度の高いものが軽やかに反応する凄さにやられちゃう。 村上 次に驚いたのは、街なかを走っているときの乗り心地の良さだった。スーパースポーツというよりは、ほとんど超高級サルーンもかくやのたおやかな感触。鋭い角が一切立たない。いったいこれは、どういう魔法の結果なんだろうと、考えているうちに編集部に着いてしまった。 齋藤 磁性流体を使った電子制御ダンパーを、“バンピー・ロード”対応モードに切り替えておけば、ちょっとした速度まで上げても、あのしなやかな柔らかさを持続するから、荒れた路面の多い都内などにはもっってこいだよ。強靭な構造のミシュラン・パイロット・スーパースポーツを履いているのに、それがウソのよう。ただただその驚異的な丸さだけが記憶に残る。凄い。翌朝、箱根へ向けて首都高を走っている時も、金属ジョイント越えがつらくなかった。東名は込んでいたけど、自動変速プログラムに任せたまま、平穏なうちに山に着いた。 村上 ワインディング・ロードでの走りっぷりは、それこそライトウェイト・スポーツカー顔負けの軽快感あふれるものだった。コーナー目がけてステアリングを切り始めた瞬間のノーズの反応が驚くほど鋭い。慣れるまでは戸惑ったけれど、ひとたびコツをつかんでしまえば、正確無比のステアリングはこの上なく扱いやすいものになる。なにしろ740psの後輪駆動だから、運転が易しいわけはない。ところが、飛ばしていても常に安心感があるところが、先代の599との大きな違いだと思った。599で山道を走っていると、突如限界が訪れて何事か起こるんじゃないかと不安に駆られることがままあった。F12にはそれがない。 齋藤 ボステアリングから返ってくるフィードバックを筆頭にインフォメーションが豊かになって、クルマの状態がずっと把握しやすいものになった。サスペンションやドライブトレインを支持する剛性があがって、情報がどこかに逃げてしまうことなく返ってくるようになった。しかも、ノーズというか車体前半部の重心が599より如実に低くなっている。599は前輪が突っ張って頑張っている感じがしたけれど、F12では前脚が無理なく仕事をしている感じがする。リアのグリップとトラクションも並外れていて、抜けるかもしれないという不安を抱くことがない。まるでミドシップのように腰のすわった安心感がある。リアに大きくバイアスのかかった前後重量配分と、エア・ヴォリュームをたっぷり取った後輪が上手く働いているんだろうね。とにかく安心できる。 ◆脳ミソが溶け出す高揚感 村上 でも、乗っていて分かったのは、軽快感の一番の源は、実は、6.3リッターV12エンジンの並外れて滑らかで軽やかな回転フィールにある、ということだ。12気筒が完全バランスであることを久々に思い出した。 齋藤 同Vバンク角が実際には65度なのに60度クランクを使っているから、微妙な不等間隔爆発になって、厳密には完全バランスではないはずだけれど、そんなことはおかまいなしの超絶級のスムーズさがある。 村上 最高許容回転数は8700rpm!けれど、そこに到るずっと手前で途方もないトルクが奔流のように溢れ出てくるから、一般道ではとてもじゃないけれど、そこまでは回しきれない。もうひとつ特筆すべきは、音だ。回転が低い時は中音域の少し太めの排気音が支配しているが、それが回転の上昇とともに一段高い音域へと変化していく様は圧巻だ。テノールからアルトへとシフトする。 齋藤 昇り詰めていく感じがたまらない。パドルで頻繁にマニュアルシフトしながら、その度に響き渡る快音に包まれていると、もう抗いようなくバカになってしまう。あの翌日、撮影で伊豆の下田までいく真夜中の海岸通りでシフトを繰り返し、われを忘れてV12サウンドに聴き耽ったことを白状します。あれはもうF1マシンの音だよ。ハイピッチで歌う自然吸気マルチシリンダー・エンジンの魔力そのもの。あの音を聴くためだけにF12ベルリネッタを買うという人がいても、ぜんぜん不思議じゃない。 村上 面白いのは、同じV12フェラーリでも、FFとF12では音も乗った感触も、ずいぶん違っていることだ。FFは気がつくといつの間にかとんでもないスピードが出ていてびっくりするというタイプで、今にして思うと、F12より音もずっと抑えられていた。F12は常にドキドキさせる。そして、回せば回すほどに、飛ばせば飛ばすほどに、その高揚感がさらに高まっていく。最後はひょっとすると、脳ミソが溶けて耳の穴から流れていっちゃうんじゃないか、と心配になるくらいだ。一方、これがミドシップV8の458系になると、むろん高揚感はあるけれど、脳ミソは溶け出さない。むしろ、飛ばすほどに頭は冴えていく。 齋藤 F12 のあの高回転域のトルクの凄まじさ。底知れない加速感に血の気がひくからね。しかも、足腰は盤石ときているから、低いギアではついつい味わいたくなっちゃう。ミドシップの怖さがないからなんだろうね。極度の緊張を予期して身構える必要がないというのかな。コーナリング・マナーにしても、前後の強大なグリップに任せたオン・ザ・レールのまま、かなりのところまで行ってしまえる。しかも、トラクション・コントロールは超一流ときているから、よほどのことがない限り、あるいはとんでもないヘマをやらかさないかぎり、危うい事態に陥りそうにない。ネジも外れるわけだよ。 ◆アバタもエクボ 村上 それにしても、こんな凄いクルマを目の当たりにしちゃうと、ため息が出ちゃうよね。単に走りがイイというだけでなく、オーナーの所有欲をかき立てる上質感、高級感に溢れている。穴ぼこだらけの外観は好き嫌いが分かれるかも知れないけれど、ドライバーズ・シートにひとたび収まれば、紛れもないフェラーリ・ワールドに浸ることができる。 齋藤 スポイラーの類いに頼らずに望む空力性能を得る、というスタンスを崩していないものの、その分、エアロダイナミクスにある程度の理解がないとすんなりとは腑に落ちないエア・トンネルやダクトが大胆に組み込まれているから、クラシカルな審美眼に叶うものには必ずしもなっていない。ロング・ノーズ+ショート・デッキのプロファイルは古典的なそれなんだけどね。一方、インテリアの細かい仕立てはオプションでいかようにもなるし、それでも足らなければ、テイラーメイドですべて自分好みに仕立て直すという手もある。そういえば、F12、ドライビング・ポジションが良かったね。ヒップポイントはかなり低くセットできるようになっていた。スポーツ・ドライビング好きには朗報だよ。 村上 正直に言うと、乗るまではあの恰好に魅力を感じられなくて、あまり期待していなかった。ところが、乗ってしまえば、アバタもエクボ。あの穴ぼこがさすがだな、と思えてくるから不思議だ。 齋藤 ポルシェ信者をしてそう言わしむるものがF12にはある! 村上 3590万円! というプライス・タグが適正かどうかはよくわからないけれど、あの走りを体験してしまえば、これなら高くても仕方ないと納得させられてしまうんじゃないかと思う。 齋藤 本物のお布施というのはそういうものです。騙されて払うのではなく、納得して自ら進んで納める。今年はご本尊のF1も勝ちまくるよ、きっと。ありがたや、ありがたや。 語る人=村上 政(ENGINE編集長)/齋藤浩之(ENGINE編集部) 写真=小野一秋 ■フェラーリF12ベルリネッタ 駆動方式 フロント縦置きエンジン後輪駆動 全長×全幅×全高 4618×1942×1273mm ホイールベース 2720mm トレッド 前/後 1665/1618mm 車輛重量 (前/後)1770kg(830kg/940kg) エンジン形式 自然吸気V型12気筒DOHC 48V 総排気量 6262cc 最高出力 740ps/8250rpm 最大トルク 70.4kgm/6000rpm 変速機 デュアルクラッチ7段自動MT サスペンション形式 前 ダブルウィッシュボーン/コイル サスペンション形式 後 マルチリンク/コイル ブレーキ 前後 通気冷却式ディスク(CCM3) タイヤ 前/後 255/35ZR20/315/35ZR20 車両本体価格 3590万円 (ENGINE2013年5月号)
ENGINE編集部
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