「会話さえ怪しい」後遺症に苦しみ...パラ自転車・杉浦佳子選手の復帰の糧となった一人の女性
諦めずにいられるのは 周囲が支えてくれるから
昔から、何かをやり遂げたときの達成感が大好きです。練習やレースを経て「過去の自分を超えられた」と感じるときほど嬉しいものはありません。 こういう話をすると「どんな困難にも挫けないポジティブな人」なんて褒められたりもしますが、とんでもない。スランプに陥ることもありますし、弱気になることもあります。 今も競技を続けられるのは、客観的な視点から改善点を教えてくれるコーチや仲間がそばにいてくれるからです。私一人では、きっと「もう年だし」などと「できない理由」を探して、どこかで諦めてしまっていたと思います。でも今は、不調に陥るたびコーチがその原因を特定し、改善策を考えてくれる。いつも助けられてばかりです。 そうした支えのおかげで、パリパラリンピックでも代表に選ばれることができました。目標は、東京で果たせなかった「トラック種目」でのメダル獲得です。深刻な障害を負った私を信じて育ててくれた方々に、喜んでもらえる結果を出したい。何とかメダルを獲って、トラック種目でお世話になった方々の首にかけてあげよう、という気持ちをとても強く持っています。 パリが終わったら、今度はまた薬剤師の経験を活かす仕事にも注力したいですね。特に、生活習慣病や認知症の「予防」につながるような活動を始められないかと考えています。事故前に薬剤師だったとき、生活習慣病がもとで寝たきりになった患者さんが、口々に「こうなるとわかっていたら、もっと気をつけて生活した」と言っていたのが、今も胸に残っているんです。 例えば、参加するだけで運動になるイベントとか、人と交流するモチベーションが高まるようなイベントとか......。薬剤師の仕事を熱心にしてきたからこそ、その経験を活かして、病気に苦しむ人を減らすことに貢献していきたいなと思います。
【杉浦佳子(すぎうら・けいこ)】 1970年生まれ、静岡県出身。北里大学薬学部卒。2016年、自転車レース中に落車し、高次脳機能障害と右半身マヒが残る。17年にパラ自転車競技の選手となり、同年の世界選手権ロードレース部門で優勝。18年には同年開催のワールドカップ全戦で優勝する偉業を成し遂げた。21年、東京パラリンピック自転車競技で二冠。2024パリパラリンピック女子自転車競技代表。総合メディカル/TEAM EMMA Cycling所属。
杉浦佳子(パリパラリンピック自転車競技 日本代表)