実は開幕からしばらくの間は、前売り券が完売しながらスタンドが埋まらないという驚愕の問題が起きていた。日本ラグビー協会はすぐに「試合指定日のない有料チケットを持ったファンの来場を読み違えた」とエラーを認めたが、開幕前に「完売」との報道が出ていたために客足の伸びない日々は短くなかった。問題が発覚するや協会関係者に抗議をしていた田中は、後に「ずっとイライラしていました」と吐露している。 　レフェリングへの提言も欠かさない。「僕らは人生を賭けてやっている。ひとつのミスで、その人生が狂う。それを『ごめん、観ていなかった』と言われても…」。レフェリーへの評価体制の確立や、個々の判定技術の向上を訴え続ける。 　決勝戦でも前半11分ごろ、こんなことがあった。 　左タッチライン際をパナソニックのウイング、児玉健太郎が走り、インゴールへ飛び込む。トライと判定される。が、オーロラビジョンに映ったリプレイ映像では、児玉の足がグラウンドの外へ出ていたことが確認された。戸田京介レフェリーは映像確認による判定、テレビジョン・マッチ・オフィシャル（TMO）を用いる。改めて、トライではなかったと宣言した。 　戸田レフェリーにとっては、自らのジャッジを覆す大英断を下した格好の場面ではある。とはいえ田中は、海外経験のある選手として「トライと言ってからTMOなんて、世界では認められていない。僕らの気持ちにも影響する」と厳しく指摘した。 　いつもはひとしきり辛口な談話を残したら、「…なんか、すみません」と頭を下げる人でもある。言いづらいことを言うのは、本人だって望んではいない。それでも言わないわけにはいかない事柄は、覚悟を持って言う…。田中はそんな人なのだ。 「開幕戦の時は協会に腹が立ちましたし、僕らがやってきたことをわかってくれているのかなと思いました。ただ、途中から立て直していただいて。今日は僕がいままでトップリーグを戦ったなかで、一番、人が入った試合。立見席や端っこの席までお客さんがいた。これを、やりたかった。日本のラグビーを盛り上げたいと思っていたのが、実ったな、と」 　ジャージィをスーツに着替えた後のテレビ用取材でこう話した田中は、「戦いはまだまだ続きます」の心をこう説明した。 「これからも普及活動を多くやりたいですし、これから自分が代表に選ばれるかどうかに関わらず、パナソニック、日本ラグビーのレベルを上げていきたいなと思います」 　31日には、秩父宮で日本選手権がある。大学選手権7連覇を果たした帝京大との一騎打ちだ。2月からはハイランダーズでのシーズンが始まる田中が出場するかは、流動的か。もっとも背番号9は、こんな風に矜持を覗かせていた。 「相手には2019年の核になる選手もいる。（彼らには）日本のラグビーを盛り上げてもらうため、トップリーグの厳しさを知ってもらって…」 　（文責・向風見也/ラグビーライター）