青山に潜む“築50年の秘密基地”今も衰えぬ人気、圧倒される中庭と内部、借り手の意外な“目的”
■ビラ・モデルナ内で、部屋を5回引っ越し 閉ざされた室内にいながら、外とつながる。「見る・見られる関係」は居住者や来訪者の安心感にもなっているという。 以前は入居において、居住している人の推薦が必要だった。ビラ・モデルナの理念を理解しているか、気持ちよく利用できるか、ふるまいや人柄に対するお墨付きが条件だった。これには、空間を楽しめる居住者を継続的に募りたいという意図もあったようだ。 真壁さん自身も同様に入居し、仕事の規模に合わせてこれまでビラ・モデルナ内で部屋を5回引っ越した。現在の部屋は「終の仕事場」と語り、いまも通っている。
竣工から50年経っても、ビラ・モデルナの人気は衰えない。家賃は、物件サイトを見ると約24㎡で18万円ほど。 ビラ・モデルナの価値を維持するために、どのように建物の管理がされているのだろうか。興和商事の新槇さんは「共用部」を挙げた。 「ロビーや中庭、エレベーターなど、共用部をよりよいものにすること。絵画を飾ったりソファセットをきれいにしたり、中庭の樹木の世話もそうです。暮らしている方はもちろん、来訪された方も気に入っていただけるように心がけています。管理組合で話し合い、修理や修繕もすぐに対応するようにしています」(新槇さん)
さらに最近は、給水管や排水管の交換など大規模な修繕も重ねた。屋外の電気設備の交換も予定している。防犯面も強化し、夜間は入り口をオートロックに。防犯カメラを多数設置し、居住者への安心感も高めている。 ■半世紀にわたって変わらない約束事 価値を保つために新たな試みを続ける一方で、半世紀にわたって変わらない約束ごともある。 それは、ロビーや中庭での食事は禁止、洗濯物や雑巾を外に干すのも禁止といったルールだ。洗練された都市型住宅の雰囲気を保つために、居住者間でも約束が守られている。
昨年から、消防訓練にあわせて年に1回、中庭で納涼会が開催されている。居住者や関係者が集まり、この日だけは中庭でビールを飲むことができる。ビラ・モデルナを利用する人同士が顔を合わせる貴重な場であり、新槇さんも普段接点のない居住者と話す機会になった。 「この建物がすごく好き、管理がすごくいい、とおっしゃってくださる方がいました。賃貸で借りていらして、売りに出たらぜひ買いたい、と。建物が好きで入居して、仕事場として使いこなして、さらに好きと言ってくださるのは、建て主の会社としてとても嬉しいことです」(新槇さん)
石田鑑三さんが、時代を先取りして提案したビラ・モデルナの都市型生活。50年を経た今も、レジデンシャルオフィスとしてほかにはない魅力を放っている。 【そのほかの写真を見る】四角いハコに囲まれた中庭は、夜の景色も圧巻。コンパクトで、秘密基地のようなこだわりが詰まった部屋の内部も
鈴木 ゆう子 :ライター