働きながら介護 4割が「離職検討」の衝撃
団塊の世代が皆、後期高齢者となる2025年、日本企業に新たな危機が迫る。50代前半で企業の中核をなす団塊ジュニアの親の介護が本格化するのだ。国も法改正で対策を急ぐが、企業の介護への認識は旧態依然としている。 【関連画像】介護中の4割以上が離職を考えている 花形部門の営業部長、主力商品の生産を一手に担う工場長。役職を問わず、企業のマネジメントの中核を担う50代が、ある日「親の介護に専念したい」という理由から退職したいと申し出る──。そんな未来が迫っている。 25年、第2次世界大戦後のベビーブームで生まれた団塊の世代は、全員が75歳以上になる。75歳は高齢者医療の節目で、「要介護状態(2週間以上にわたって常に介護を必要とする状態)」として認定される人の割合が3割を超え、それ以下の年代よりも一気に介護リスクが高まる。 自立した生活を送るために必要な能力が急速に下がり、外出しての買い物などに支障を来す人が増える。認知症の発症割合も高まる。この世代の親の介護に直面するのが団塊世代の子どもたち、いわゆる「団塊ジュニア世代」(1971~74年生まれ)だ。 団塊ジュニア世代は現在50代前半。多くが若手経営層や管理職、あるいは現場のベテランとして企業の中核を担う。働き手不足の中、貴重な後進を育てるためにも欠かせない存在となっているこの層が、親の介護と仕事の両立に悩む時代が目の前に迫っている。 ●30年にはビジネスケアラーが318万人 若い層なら介護に無縁というわけでもない。熊本県益城町に本社を置く化粧品メーカー、再春館製薬所の稲冨修一郎人財部労務・戦略人事マネージャーは「実は当社で介護離職に至るのは、若い女性社員が多い」と明かす。親が祖父や祖母の介護で疲弊するのを目にして、「自分が助けなくては」と休みを取って手伝っているうちに、「親のそばで働きながら介護する」と決意してしまう。説得する間もなく職場を去る人も多いという。 今後は、介護を担う世代の若年化と人数の減少が一段と進む。経済産業省ヘルスケア産業課の水口怜斉課長補佐は「介護は、今直面している人だけの問題ではなく、働く人すべてが考えておくべき課題」と話す。2030年には、家族を介護する人の4割に当たる約318万人が有職者(いわゆる「ビジネスケアラー」)になるという推定もある。 経産省は、社員が介護離職したり、介護との両立によって労働生産性が下がったりすることによる損失額を試算した。その結果、30年時点では大企業では1社当たり年間6億円以上、中小企業で1社当たり年間773万円となった。国全体で見た場合、制度や支援が現状のままでは、損失は約9兆円に上る見込みだ。