働きながら介護 4割が「離職検討」の衝撃
今回、本誌は40代以上のビジネスパーソンらを対象に、仕事と介護についてのアンケート調査を実施した。40代以上のビジネスパーソンで、現在仕事をしながら介護中の444人を対象に「今、介護や親の手助けを理由に勤務先を辞めることを考えているか」と聞いたところ、「辞めるつもり」「辞めることを悩んでいる」との回答が実に42.8%と半数近くを占めた。 既に人手不足に直面している企業にとって、由々しき数字だ。そんな介護離職ラッシュの足音を察知している企業の人事担当者は危機感を強めている。 ●休ませるだけなら危機を増幅 ところが、企業による介護支援制度づくりは進んでいるとは言い難い。制度があっても十分に使われていない。家族の介護体制を整えるための短期休暇制度「介護休暇」(対象家族が1人の場合は年5日)を取得した社員がいる事業所の割合は2.7%だ(21年4月~22年3月末、厚生労働省調べ)。 国はこうした状況について「労働損失の影響は甚大であり、政府として、喫緊の対応が必要」としている。その対策の担い手に指名されたのが企業だ。 育児・介護休業法を改正し、企業に社員の仕事と介護の両立支援をより明確に義務付けた。施行は25年4月だ。具体的には、介護支援制度を社員に個別に周知することや、利用の意向確認、社員への情報提供、研修実施や相談窓口の設置、介護のためのテレワークを努力義務とする、などだ。 一見、社員に親の介護に充てる時間を与えるように配慮された施策に見える。しかし、介護の専門家の間では「とにかく休みを与えて、自己責任で介護させればいい」という方向に暴走しないかと危惧する声が上がる。 「育児休暇と同じで、義務化しても休んで何をするかの中身を考えていないと、本人にも家族にも悲劇を生む」。ワーク・ライフバランスのコンサルタント、新井セラ氏はこう指摘する。「(介護によって)親との距離が近づき過ぎてストレスがかかり、介護離職につながるケースが多い」。延べ3000人以上の会社員の個別介護相談に乗ってきたNPO法人となりのかいご(神奈川県厚木市)代表、川内潤氏も警鐘を鳴らす。 ただ休みを与えるだけでは離職危機が増幅しかねない。まずは介護のイメージを正しくつかみ直すところから始めよう。 次回は、日経ビジネスが実施したアンケート調査の結果と取材を基に、突然介護を迫られたビジネスケアラーの苦悩を描く。本連載を通して、アンケート調査の自由回答欄に寄せられたビジネスケアラーたちの生の声も紹介していく。人事担当者だけでなく多くの経営者・ビジネスパーソンにぜひ耳を傾けてほしい。 調査概要 日経BPコンサルティングに依頼し、2024年9月から10月にかけて、2種類の調査を行った。 (調査A)介護経験者の実態調査。インターネット調査会社のモニターに対して、介護を必要とする方の実態や、回答者の関わり方、離職状況などを尋ねた。回答数は718人。このうち「現在、介護中」は572人、「介護経験者」は146人。「離職経験者」は330人だった。 (調査B)日経ビジネス及び日経ビジネス電子版の読者を対象とする介護に関する意識調査。介護に対する考え方や、職場の雰囲気などを聞き、介護経験者と未経験者の意識の違いなどを調べた。回答数は779人。このうち「現在、介護中」は243人、「介護経験者」は236人、「未経験者」は300人だった。
山中 浩之、馬塲 貴子