【インタビュー】「高松宮殿下記念世界文化賞」受賞のソフィ・カルが示す「不在」の存在とは?
《なぜなら》というシリーズはテキストが刺繍された布をめくるとその下に写真がある、という仕掛けだ。テキストにはカルがなぜこの写真を撮ったのかが綴られている。 「私は常々、コンサートでも演劇でも観客が演奏や芝居を見ないで写真を撮ることに驚いています。私はその瞬間をスローモーションにして、書いてあることを読んでほしいと思ったんです。私が写真を撮る理由は必ずしもそれが美しいから、ということではありません。その理由をテキストにすることで時を少し止めて、見る人にそれを提示したいのです」
ルドンの《グラン・ブーケ(大きな花束)》は〈三菱一号館美術館〉が所蔵する作品。展示公開していないときは壁の向こうにあって、見ることができない。その脇には、普段は見られないこの作品について美術館のスタッフやそこに携わる人々の言葉をモチーフにしたカルの作品《グラン・ブーケ》が展示されている。カルの作品《グラン・ブーケ》では不在であるはずのものが一瞬、姿を現すことがある。 《グラン・ブーケ(大きな花束)》の向かいに展示されているのは《フランク・ゲーリーの花束の思い出》だ。カルの個展のたびにフランク・ゲーリーから贈られた花束の写真で構成されている。展示されている花瓶はゲーリーのデザインだそう。 「いつも変わらずに支援してくれていることを覚えておきたい、記憶や思い出を残しておきたいと思ったんです。パリでゲーリーと協働でセーヌ河にかかる橋の上に電話ボックスを設置したこともあります」
《監禁されたピカソ》はピカソの没後50周年を記念するアーティストとして、パリの〈ピカソ美術館〉がカルを招聘したことがきっかけになって生まれた作品だ。カルが撮影したピカソの絵は紙で覆われていて、壁の作品タイトルしか見えない。 「私はピカソの作品と対峙するのが怖かったのです。彼の作品によって押しつぶされてしまうのではないか、そんな気がしました。自分の作品をピカソの作品の隣に展示することに恐怖を覚えたのです。パンデミックで美術館が閉館し、彼の絵が『監禁』されているのを見て、彼の幽霊となら対峙することができるのではないかと考えました」