ジェラード、ランパード、オーウェン…イングランド黄金世代が輝けなかった理由
求心力を持ったリーダーの存在も…
「(ユナイテッドとの対戦時に)リオやガリー・ネビルとトンネルに並んでいると、なんとしても倒してやろうと、強い感情が込み上げた。それは憎悪だった。だから代表で一緒になっても、友好的なふりをしているだけだった」 リオもこんな打ち明け話をしている。ランパードとの関係性についてだ。「俺たちは同じウェストハムのユースで育った。なんでも一緒に乗り越えてきた。やがて俺はリーズに行き、それからマンチェスター・ユナイテッドに移籍した。フランク(ランパード)はチェルシーに行って、その頃にはもう関係は途絶えていた。コミュニケーションはまったくなくなった」 そしてこう続ける。 「(クラブの)勝利がすべてで、それだけで頭がいっぱいだった。フランクに弱みを見せたくなかった。スティービー(ジェラード)に対しても同じ。リバプールと優勝を争っていたとき、代表で一緒になっても隣に座ってビールでも一杯、なんて気持ちにはなれなかった。リバプールのことは何も聞きたくはなかったし、だから打ち解けることもなかった」 バラバラな黄金世代の心と心を繋ぐ、求心力を持ったリーダーもいなかった。イングランド代表史上初の外国人監督となったスベン・ゴラン・エリクソンも、その後任のスティーブ・マクラーレンも、2人目の外国人指揮官のファビオ・カペッロも、その後を受けたロイ・ホジソンも、当時の監督は誰ひとりとして、選手の気持ちを代表に向かわせ、チームとして結束させる説得力、カリスマを持ち合わせなかった。 ジェラードは言う。 「振り返って思うのは、選手をはるかに凌駕する存在の監督が欲しかった。クロップやグアルディオラやモウリーニョのような、チームをさえはるかに超越した監督だ。ゴールデン・ジェネレーションの上に立ち、厳しい決断を躊躇なく下すことができる人がいたら、あのグループはもっともっと輝いただろう」 輝けなかったこの黄金世代に功績があったとすれば、それは貴重な教訓を残したことだろう。選手たちが「イングランド代表」への誇りと帰属意識を強く持ち、チームの一員であることに喜びを見出す、そんな代表の在り方を理想として掲げたFA(イングランドサッカー協会)は、ユース年代の育成方針を転換した。現場の第一線でその取り組みを主導したのが、ガレス・サウスゲイトだ。 サウスゲイトが率いるイングランド代表はいま、その薫陶を受けた新世代の選手たちがスリーライオンズ(代表の愛称)への誇りと帰属意識を胸に、チームとして強く結びつき、栄冠に向かって力強く歩を進めている。 ※ワールドサッカーダイジェスト5月2日号の記事を加筆・修正