水木しげると松本零士。娘が語る巨匠の素顔「水木の娘として今後は生きるんだと、肝が据わったのが40歳頃。小学校の教員を辞めて、水木プロへ」
◆常に父親が家にいる日常 原口 父がいつも家にいるのが当たり前だったので、子供の頃、「お父さんは朝お勤めに行って、夜帰ってくる」と友達から聞いた時はビックリしましたね。ただ、締め切り前は仕事場に行っちゃいけませんでした。 松本 私は仕事部屋に入り込んで、床でおままごとをしたりしてましたけど、仕事中に話しかけるのはやはりNG。昼間なのに、「うるさい。マキ、寝ろ!」というのが父の口癖でした。(笑) 原口 仕事部屋には、出版社から送られてくる少年漫画誌が置いてあったのでもう読み放題で。 松本 私も漫画が好きで、少女漫画――例えば萩尾望都先生の『トーマの心臓』をまだ理解できないのに読んでいました。 原口 私は少年漫画が好きで、摩紀子さんに初めてお会いした時に、「私、松本零士さんのファンなんです」と言って、中学生の頃に買った松本先生の「戦場まんがシリーズ」をお見せしましたね。『男おいどん』も好きでした。当時の私に教えてあげたい。「松本零士先生の娘さんと仲良くなれるよ」って。
松本 これも清水さんから伺った話ですけど、水木先生と父が一緒に新幹線で京都の映画村に行った際、車内で水木先生から「アンタは今、何をしているんですか」と聞かれた父が、漫画家以外にも宇宙関係や大学教授などいろんな役職の書かれた名刺を見せたらしいんです。そしたら水木先生が、「アンタ、漫画描いておらんですな」と一言。 原口 あ~。(笑) 松本 それにショックを受けたのか、その日は宿泊予定だったのに急用ができたからと東京に帰ってしまったというんです。その話を聞いて母と、「あきれた! そこで怒っちゃうなんてパパはどうしようもないね」って。 水木先生の一言って核心をついているんですよね。ですから、「尚子さんはお父さんのファンなんだって」と言ったら、ものすごく嬉しそうでしたよ。 原口 ホント!? ファンとしてはすっごく嬉しいです。松本先生の漫画を読んで物理学や宇宙に興味を持ち、研究の道に進んだ人はすごく多い。日本の宇宙開発の裾野を広げる大きな存在だったとつくづく思います。 松本 父が聞いたら喜びます。昔はユーチューブなどないですから、漫画やアニメを通して宇宙に触れる子供も多かった。父は「絵空事は描きたくない。動くものをきちんと動くと理屈でわかっている絵を描きたい」と言ってましたので、そのへんで貢献はできたかなと思います。 (構成=大西展子、撮影=大河内禎)
原口尚子,松本摩紀子
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