【西武投手王国への道】一軍初先発を遂げた3年目左腕 21歳が飛躍するための必要な要素「調子の良し悪しに左右されると、結局一軍では通用しないと思います」(榎田大樹コーチ)
【埼玉西武ライオンズ 投手王国への道】 パ・リーグを戦う西武の最大のストロングポイントである投手陣。近年、急速に力をつけてきたが、その裏には一体、何が隠されているのか。ライオンズ投手王国への道を追う――。 取材・文=中島大輔 写真=桜井ひとし 【選手データ】菅井信也 プロフィール・通算成績・試合速報
二軍と一軍を隔てる壁に直面している左腕
入団3年目の今季、西武二軍の首脳陣から特に高い期待を寄せられる投手が3人いる。身長191cmで“和製ランディ・ジョンソン”の異名を取る羽田慎之介、鋭く落ちるフォークを武器にする右腕・黒田将矢、昨年のフェニックス・リーグで日本シリーズを控える阪神の主力相手に好投した菅井信也。いずれも2021年のドラフトで指名された高卒投手だ。 過去2年はファームで体力アップを重点的に行い、登板間隔を1週間以上空けながら投げてきた。飛躍を期す3年目を前に、西口文也ファーム監督は育成方針をこう示している。 「まず1年間しっかり投げることが大事になってくる。その上でコンスタントにイニング、球数を投げながら力をつけて、一軍の舞台でしっかり投げられるようになってほしい」 計画的に育てられる3人の中で唯一、“期限”つきが菅井だった。羽田がドラフト4位、黒田が同5位で指名された一方、育成3位の菅井は3年間で支配下登録されなければ今季終了後に一度自由契約になるという規定があるからだ。 支配下登録の吉報が届けられたのは6月2日、羽田が一軍デビューを飾った19日後だった。 「今後、内海哲也(現巨人コーチ)さんのような選手になりたい」 そう話した菅井にとって内海は入団1年目にチームメート、2年目にはファームの指導者として助言をもらった存在だ。ともに身長180cm以上で左腕投手である二人は周囲から「似ている」とよく言われるという。 対して昨年、内海コーチは期待の後輩をこう評している。 「入ってきたばかりのころは体がまだ出来上がっていなかったけど、この2年で筋肉もついてきました。球速も上がってきたし、関節が柔らかくて左腕がムチのようにしなって出てくる真っすぐが特徴。本格派左腕という感じで楽しみです」 菅井は支配下登録から4日後の6月6日、神宮でのヤクルト戦でプロ初登板初先発を果たした。5回までに103球を投げて被安打3、与四死球4、2失点は悪くない結果だが、二軍での課題が露呈したと榎田大樹ファーム投手コーチの目には映った。 「緊張もあったでしょうが、課題は曲がり球です。村上(村上宗隆)君の初回のレフトフライがスライダー。それなりに勝負できていたけど、変化量がバラついています。その中で頑張っていたけど、しっかり投げられるようにしていかないといけない」 以降、登録抹消をはさんで6月28日に再昇格後は中継ぎで起用されているが(※7月15日オリックス戦で先発し、プロ初勝利を挙げた)、菅井自身は榎田コーチの指摘をどう感じているのだろうか。 「二軍のときから変化球の精度は課題で、一軍に来てからもっと制球が難しくなっています。甘く入ったあと、厳しく行こうとし過ぎてボール球になっていると思います」 いわば、二軍と一軍を隔てる壁に直面している格好だ。榎田コーチによると、同じストライクゾーンも一軍ではより厳密に判定される。 さらに一軍では、相手打者のレベルが格段に上がる。技術やパワー、選球眼、鋭い読みを備える歴戦の打者に対峙するのは、実績の少ない投手にとって並大抵のことではない。試合前からスカウティングで丸裸にされており、相手の予想を上回る投球を見せる必要があるのだ。