多くの人が知らない…「鍼灸で肩こりが改善する」ときに、人体で起きている驚きの「現象」
私たちにとって身近なツボや鍼灸、漢方薬。近年、そのメカニズムの詳細が西洋医学的な研究でも明らかになってきています。例えば<手のツボが便秘改善に効くとされるのはなぜ><ツボに特徴的な神経構造が発見された?><漢方薬が腸内細菌の「エサ」になっている?>など、興味深い研究が数多く報告されているのです。最新の研究では一体どんなことが明らかになっているのでしょうか。 【図解】からだで起こる「軸索反射」の仕組み そんな東洋医学のメカニズム研究の最前線をとりあげ、新聞やYouTubeなどでも紹介された話題の一冊、『東洋医学はなぜ効くのか』(講談社ブルーバックス)。コミカライズに向けたコンテストも開催されている本書から注目のトピックをご紹介していきます。今回は、鍼灸で肩こりなどの痛みが改善するメカニズムの一端を紹介します。 *本記事は、『東洋医学はなぜ効くのかーーツボ・鍼灸・漢方薬、西洋医学で見る驚きのメカニズム』(ブルーバックス)を再構成・再編集したものです。
「フレア」とはなにか
体の末梢での代表的な鎮痛メカニズムは、刺激したツボの周辺の末梢神経が反応して起こる軸索反射と呼ばれる作用です。鍼灸を体験した方の中には、鍼を刺した皮膚の周りが赤くなる様子をご覧になったことがある方がいらっしゃると思います。俗にフレアと呼ばれ、軸索反射の生理反応によって、鍼を刺した周囲の血流が増加して起こる現象です。 軸索とは神経細胞の突起のなかの長い部分を指します。鍼の刺激によって皮膚や筋肉の感覚受容器で生じたインパルスの一部が、この軸索にある小さな分岐(軸索側枝)に入り、本来の進行方向と逆行する形で皮膚の表面近くにある感覚神経の末端を刺激することによって神経性の炎症が引き起こされます。 この神経性の炎症によって、神経の末端からサブスタンスPやCGRPと呼ばれる神経伝達物質が放出されます。これらの物質は周囲にある血管の細胞に作用し、血管を拡張させたり、透過性(物質を通す度合い)を高めたりする作用を持っています。そのため、神経性の炎症が起こった周辺の血管では血流の増加が起こります。しばしば鍼灸やツボ押しによって「血流が良くなる」などと言いますが、まさにこの一連のプロセスが血流促進の理由の一端であり、これが軸索反射なのです。では、なぜ血流の増加で痛みが和らぐのでしょうか。