これぞ“川手マジック”。野菜の新たな味わいを引き出す新生「フロリレージュ」にフードライターも熱視線
このターブルドットと並んで、川手シェフがここで新しく挑戦しているのが“プラントベース”。野菜を中心としたコース構成だ。川手シェフがこう語る。「世界のベストレストランに選ばれ、各国のシェフたちと交流したり、海外で料理を作ったりする機会も多くなって気がついたのは、魚介や和牛などの日本の食材を海外で手に入れることが、今はたやすくなってきているという事実でした。そんな状況下で、自分らしい料理を表現するにはどうしたらよいかと考えた時、思い至ったのが野菜だったんです」
確かに、流通が劇的に発達した現在、その土地ならではの食材を使うことでオリジナリティを出すのは、以前に比べて難しくなってきたことは否めない。そこで、川手シェフが目を向けたのがVegetable。野菜である。「僕自身、歳を重ねてきて、昔に比べるとライトなものを好むようになってきたことも理由の一つ」と川手シェフは笑うが、その野菜へのアプローチは実にユニークだ。
例えば、白菜の一皿。白菜は、10日~2週間ほどかけて自然発酵させ、中にはフロマージュブランのババロアやサヨリの昆布〆、松の実のローストに金柑のジャムが巻き込まれている。純白の器に楚々として佇むロール白菜に注がれたのは透明の液体。その正体は、なんと発酵白菜の絞り汁。沖縄在来種の柑橘「カーブチー」の果汁も加え、塩味を調節。風味も爽やかに仕上げている。
発酵白菜、中華で言うところの酸菜が、アプローチの仕方次第で、見事なモダンフレンチの一品に変貌。川手マジックによってイメージを一新させている。
次に登場した新緑の山を思わせるグリーン一色の一品は、こごみが主役の一皿。より香りが立つようソテーしたこごみは4~5月が旬。シャキッとした中に僅かなぬめりを持つその食感に抑揚をつける名脇役が稚鮎のタルタル。そのほろ苦さとクレソンの爽やかな苦みが季節のハーモニーを奏で、口福をもたらしてくれる。
一方、大根はパイ包みに。思えば、魚や肉のパイ包みはよく目にするものの、野菜のパイ包みはあまり聞いたことがない。そこで、川手シェフは大根をコンフィにし、パイ生地で包んでフリットに。