雅楽師・東儀秀樹さん「100%信頼してもらえる親でいること」が子育てに最重要です|STORY
日本の古典伝統芸能、雅楽の奏者でありながら、趣味でもプロ級の腕前を惜しげなく披露し、周りを常に驚かせ楽しませる東儀さん。お堅いイメージがある一方、実はユーモラスで愛あふれる熱い人柄でも知られています。最近では高校2年生(17歳)になったお子さんの典親(通称ちっち)さんと親子で一緒にコンサートで演奏されたり、メディアでも大活躍。育児本を出版された当時はお子さんはまだ8歳で、育ってみないとこの先まだ正解もわからないと語っておられましたが、今の二人の姿をみた人は、一目瞭然に親子間の絶大なる理想的な信頼関係を感じとれることでしょう。「子育てには悩みがつきもの」、そんな先入観を取り払ってくれる、東儀さん流の子育て術や考え方をヒントにしてみたら、今からでも素敵な親子関係を築くことができそうです。
■東儀秀樹さんプロフィール 1959年東京生まれ。東儀家は奈良時代から1300年間、雅楽を世襲してきた楽家。父の仕事の関係で幼少期を海外で過ごし、高校卒業後に宮内庁楽部に入る。宮中儀式や皇居において行われる雅楽演奏会、海外公演など日本の伝統文化の紹介と国際親善の一役を担う。1996年にアルバム「東儀秀樹」でデビュー。以降、日本レコード大賞企画賞、ゴールドディスク大賞、純邦楽・アルバム・オブ・ザ・イヤー、2004年芸術選奨文部科学大臣新人賞等、受賞歴も多数。CMや映画への楽曲提供、ドラマ・テレビ出演、異なる分野のアーティストとのコラボレーション、絵本の創作、執筆をするなど、現在も多岐にわたって活動している。最新のニューアルバム「NEO TOGISM」も反響を呼んでいる。
どんなに忙しくても子どもの問いかけには反応してきました
――親子で一緒にライブやコンサートに出演されたり。仕事でもプライベートでも仲良しですよね? 親子アピールをしようだなんて微塵も思っていないんです。雅楽のコンサートでも、ロックの演奏も無理矢理に引っ張り出しているのではなく、ただ、僕がいるところに、息子である、ちっち(典親さんの愛称)が一緒にいるというだけのことで。本当は嫌だけど、親がそこまで言うから仕方なく関わっておくといった気遣いが生まれるのは絶対によくないと思っています。日常の生活、つまり、人生をとにかく無駄なく楽しんでいるのをすぐ近くで見ていると、巻き込もうと思わなくても自然にいつの間にか巻き込まれてしまっているというような、すごくいい状態になっているんだと思います。 以前、子育て本を書きましたが、“こうすれば人の心は大丈夫”という保証のない確信があったんです。それを人に伝えながら実践する時が来たんだなと思いながら子育てを始めて、今に至っています。多感な時期になったらコミュニケーションがなくなったりもするのかなと思いきや、この17年間、口論するとか、意見が違って気まずくなることも一度もなかったんです。 ――子育てで大切にしていたこととは? 小さい頃から、「ねえ、パパ」って子どもが言った瞬間、僕は全てのことをやめて必ず目を見て「なあに」と言って最後まで話を聞くようにしていました。「あとでね」とは絶対に言わなかったんです。子どもが一番熱い時、一番喋りたい今、「あとでね」と言ってしまったら、その「あとで」が今度いつくるかわからないから。子どもは大人になるし、「どうせ今は聞いてくれなくて、またあとでになるから言わないでおこう」ってなってしまって、言わなくなるんです。それが孤立を作ってしまうと思うんですよ。だからどんなに忙しくても、作曲の最中、どんなにいいところで邪魔されても必ず耳を傾けていたんです。いったん手を止めても、僕なら才能があるから(笑)回復できるんですよ。他で聞いてもらえなくても、家に帰れば必ず聞いてくれる人がいるというのは、子どもにとってはすごく大切なことなんです。 ただ聞いてもらえたというだけで気が済んだり、そこでアドバイスをもらえるとかなり安心するんでしょうね。なので、「これを言うと親が心配するかな? 気にするかな?」ということも何でも言うようになりました。テストで悪い点をとったとか、僕だったらランドセルの奥に隠して知らん顔していたのに、うちの子は目を輝かせて悪い結果を報告してましたね(笑)。嘘や偽りがないんです。学校の先生も、全部がいい人であるはずがなくて、「先生と言われている人が全部正解を持っている人というわけではないよ」と伝えています。 先生の悪いところも「人ってこういうものだな」と見るといいよって、よく言っていて。そうするとむやみに誤解されて先生に叱られたりしても、へこたれなくなって「先生にも見えていないところがあるんだなぁ」と言いながら先生よりも大人になった気分で家に帰ってきたりも(笑)。考え方、見方を変えるだけで心のゆとりができるんでしょうね。ちょっと嫌なことがあっても気持ちが参らずにいられるんだと思います。 ――私自身、子沢山なのですが、話しかけられてもすぐに対応できないことが多々あります。親の愛を全面に一人だけに注げない場合はどうしたら良いのでしょうか? 気持ちはそんなことないんでしょう? もう、それでいいんですよ。物理的に無理なものは無理って。たくさん子どもがいたら、受け取り側も「そりゃ~無理だよな」ってわかるものだから。「どうして?」っていうのはないと思います。気持ちがあってちゃんと接していれば大丈夫ですよ。