雅楽師・東儀秀樹さん「100%信頼してもらえる親でいること」が子育てに最重要です|STORY
息子に反抗期はありませんでした
――反抗期はありましたか? 子育て本を出版した時は、中学、高校生になったら、いきなりコミュニケーションがなくなったり、反抗期が来たりするのかなと思っていましたが、微塵もなかったですね。この17年間、口論するとか、ちょっと意見が違って気まずくなるっていうのが一度もないんですよ。つまり、声を荒げることも叱ることもなく。 ――怒ったこともないのですか? 「怒る」っていうのは無意味なことで、怒る人というのは、自分の気が済むようにしたいだけでなんの解決にもなってないことがほとんどなんです。解決をしたいのだったら、怒る前に、どうしてそういうことになったのかを説明して理解してもらう必要があります。そのためには、怒っていたら理解してもらえませんから。指示をしたい時には、本当に丁寧に「周りの人はこういうふうに勘違いする可能性もあるし、だからこの行動とか言葉ってものすごく大事なんだよ」っていうことを言ってあげたり、「今の言葉って、逆に違って捉えられることもあるよね、それだと相手は怒ったり悲しんだりすることもあるけど、こういうふうに一言添えておくと確実に伝わるよ」とか。そう言う言い方をしていくと、コミュニケーションというものがどういうものなのかを、勝手に考えてくれるようになります。 ――人生の先輩として気づきを与えるみたいな感じでしょうか? そうですね。常に、こういう大人になれば大丈夫だ、という見本でいられたらいいなと思っています。「あんな父親みたいにならないように頑張ろう」という家庭を周りでいっぱい見ているけど、反面教師ではなくて。やっぱり、家族がいつも仲良くて会話が途切れなくて、いつも笑っているようなところの子どもって、ものすごくイキイキしている。だからそのためにも話しかけられた時には必ず目を見て最後まで話を聞いていたんです。息子も、他のインタビューで、正直に「世の中で一番尊敬するのは父親です」と言うんです。普通、今の若い子って、そんなこっ恥ずかしいことなんて格好悪くて言えないでしょう? だけど、それをポンっと言えてしまうところに、僕は、自分の生き方が上手くできているという確信をもらえた気がしているんです。その責任を死ぬまでまっとうしたいと思うと、きちんとというか色々な意味で、間違いのない生き方をしてやろうじゃないか、というスイッチが入りっぱなしになりますね。 ――反抗期がなかった理由についてはどう思いますか? あってもいいのになかった理由を考えてみたんだけど、100%親を信頼しているからだと思うんです。それも、親の喜ぶ顔を見るために何かをしようというあざとさすら、全く必要がないぐらいの信頼が。子ども自身、自由だけど隠れてコソコソする感じでもないし、自分の話を親が聞いてくれるというオープンな関係でいると、「親が気にするから」などということもなくなるんでしょうね。 ――思春期になって心を開いてくれなくなるというケースもよく聞きます。親としてできることは何だと思いますか? うちの子がそうならなかったから僕には経験がないのだけど、無理してコミュニケーションを取ろうと思うと厄介だと思うんですよ。よく色々なご家庭の話を見聞きすると、折り合いがよくない時に親が頑張って何かをしたところで余計に振り向いてもらえなくなることが多いです。もし、そうなった場合は、きっと何かの拍子に子どもが気づいてくれる時がいずれ訪れるから、すごく大きな気持ちでドンと構えるしかないと思うんです。 心配するよりも、信頼することですね。「信頼してくれてるんだ」と子どもが思った時に、そこで改めて親の愛情を感じる時が来るだろうから。心配して小言を言っていると愛情と思わないから反抗するんであって、信頼して何もしないけど守っていきたいという気持ちを持った親の心はきっと伝わる時が来ると思いますね。 ――良かれと思っても小言を言ったり、問いただしたりしては逆効果なのですね。 そうすると今度は隠れて何かをするようになってしまうから。「したくない」と子どもが言うなら、「ああ、そうか。今はしたくないのか。いつか、したいと思う時が来るといいと思うよ」ぐらいの気持ちで受け取れたらいいですね。「しなさい」ではなくて、「できる時が来るといいね」と。一緒に時間をかけてみようか、というスタンスを親も持っているのが伝わると、お子さんも安心するのではないでしょうか。「ああ、待っててくれるんだったら、頑張ってみようかな」って、もしかしたらすぐに変わるかもしれないし。