日本人がん患者の遺伝子変異の全体像判明 国立がん研が初の5万人ゲノム異常解析
国立がん研究センター研究所は欧米人などと異なる日本人のがん遺伝子変異の全体像が明らかになったと2月29日に発表した。「がん遺伝子パネル検査」で得られた約5万人の患者のデータを活用し、遺伝子の変異を解析。がん治療薬の標的となる変異があった割合は平均で約15%だったという。遺伝子変異などを明らかにして治療効果が高いと見込める薬を選んで治療する「がんゲノム医療」に貴重なデータを与える成果で、国立がん研は今後も解析を続けて治療成績の向上につなげたいとしている。
一人一人に合った治療法見つけるゲノム医療
人間の体には約37兆個もの細胞がある。細胞内の核には遺伝子を乗せた染色体が入っている。染色体に含まれる遺伝子と遺伝子情報の総体がゲノムだ。1人のゲノムには2万~3万種類の遺伝子が存在し、遺伝子ごとに体をつくるさまざまな「指令機能」がある。 ゲノムには両親から受け継いだ62億個の塩基が並んでいて、一部の塩基配列が異なることで一人一人の個性が決まる。その個性には外見や性格などのほかに、病気になりやすさや薬の効き方、副作用なども含まれる。この違いを医療に活用するのがゲノム医療で、がん治療に活用されている。 がんゲノム医療の効果の決め手となるのががん遺伝子パネル検査だ。生検や手術などで採取した組織を高速で大量のゲノムの情報を読み取る「次世代シークエンサー」装置では数十から数百もの遺伝子を同時に調べることが可能。2019年に保険適用されたことから一気に普及した。遺伝子の変異、変化を調べて患者のがんの特徴が分かればその患者に適した治療法を決めることができる。患者側からすると「自分の遺伝子変化を狙う薬」、つまり「分子標的薬」を見つけることにつながる。
ここで注意しなければならないのは遺伝子が直接がん組織をつくるのではないことだ。がんは、遺伝子がさまざまな原因で正常に機能しなくなって起きる病気だ。ごく一部の、生まれつき遺伝子が変異している「家族性腫瘍」を除き、ほとんどのがん細胞は生活習慣や喫煙、加齢などが原因で特定の体細胞の遺伝子が後天的に変異することで発生する。こうしたがん細胞にだけできた遺伝子変異は次の世代に遺伝することはない。 現在、この検査は「がんゲノム医療中核拠点病院」や「がんゲノム医療拠点病院」「がんゲノム医療連携病院」などで行われている。検査結果は患者の同意を得た上で国立がん研究センターの「がんゲノム情報管理センター」に集められている。対象は標準治療をしても十分な効果が得られなかったがんや、標準治療のない希少がん、原発不明がんの患者に限定されている。ただ、検査でがんと関係のない遺伝子変異が見つかることもあり、遺伝に関する十分な説明や相談に適切に対応する病院の受け皿が重要になる。