保健室のタブレットで心の不調をキャッチ 11の質問から命を守る取り組み
「自殺リスクがどれほど高いのかを数字で示すことで、お母さんも真剣に向き合ってくれました。その結果、医療につなげることができ、発達障害があるという診断が出たことで、『だからうちの子の性格はこうだったんだ』と理解してくださったのです」 母親は学校に信頼を寄せるようになり、娘の気になることを養護教諭に相談するようになった。進路選択も無理をさせない方向が定まり、女子生徒はのびのびと学校生活を送れるようになった。そして生徒自身も、困ったことがあれば保健室へやってきて、助けを求めるようになったという。 RAMPSがシステムのアップデートで使えなかった時期、このベテラン教諭は気になる生徒に対し、頭に入っていたRAMPSの項目どおりに質問してみたことがあるという。 「そうすると、タブレットがなくても、ちゃんと話してくれるんですよ。自殺やいじめといったデリケートな話題を聞くことに以前は抵抗がありました。けれど、RAMPSのおかげで、正面から聞くべきことだったと勉強させてもらいました」 このことは、開発者である北川さんの体験とも重なる。
初対面でも生徒は打ち明ける
北川さんは開発過程で、自殺リスクが発覚した中学生男子の2次検査をしたことがあった。初対面ながら、男子生徒は何でも率直に打ち明けた。質問を終えた北川さんが「どうして初めて会った私に、こんなにしんどいことを教えてくれたの?」と聞くと、彼はきょとんとした顔になって言った。 「これまで聞かれたことがなかったからです。聞かれないと、言えないっすよ」 現在、RAMPSのIDを持つ中高生は、全国に約3万人いる。しかし、RAMPSがなくても、自殺予防の大事なポイントは実践可能だと北川さんは力を込める。 「子どもに対して、自殺のことを遠ざけようとせず、正面から、はっきり聞くことです。聞いたらちゃんと答えてくれます。『この人は関心を持ってくれている、相談していいんだ』というメッセージを伝えるためには、しんどくても踏み込んで話し、子どもとしっかり向き合うことが一番大事です」
--- 秋山千佳(あきやま・ちか) ジャーナリスト、九州女子短期大学特別客員教授。1980年生まれ。早稲田大学政治経済学部卒業後、朝日新聞社に入社。記者として大津、広島の両総局を経て、大阪社会部、東京社会部で事件や教育などを担当。2013年に退社し、フリーのジャーナリストに。著書に『実像 広島の「ばっちゃん」中本忠子の真実』『ルポ 保健室 子どもの貧困・虐待・性のリアル』『戸籍のない日本人』。2匹の保護猫と暮らす。http://akiyamachika.com