保健室のタブレットで心の不調をキャッチ 11の質問から命を守る取り組み
磯邉さんは学校の中でも保健室が、生徒の命を支える「最後の砦」だと感じてきた。だが、多くの学校で一人職である養護教諭の負荷が増していることも懸念しているという。 「スマホの普及によってSNSでいろんな人とつながるなど、生徒の問題が複雑かつ多様化しています。さらにコロナ禍で、家庭の経済的困難や生きづらさを抱える高校生が増えている実感もあります。養護教諭一人の力だけでは、大勢いる生徒の背景までとても見きれない状況です」 実際、コロナ禍のなか、子どもの自殺は増えている。警察庁のまとめでは、昨年自殺した小中高校生は499人(前年比100人増)で、統計の残る1980年以降最多だった。うち高校生が339人(同60人増)と7割近くを占める。
コロナ禍で来室者数が増加
新潟県内でRAMPSを使ってきた学校の実感はどうか。県立A高校の養護教諭は、コロナ禍になってから生徒の来室者数は増えていると語る。 「コロナ前なら1日あたり10人前後でしたが、最近は20人を超える日が多い。コロナの影響で昨年度は学校行事がなかったため、友人関係をうまく築けなかったり、学校生活に自信を持てなかったりする悩みが多いようです」 そんななか、「まさかこの子が」というケースがあったという。昨年秋、普段は保健室に来ない3年生の男子生徒がやってきた。おとなしい性格で、学校側は何らかの問題がある生徒とは捉えていなかった子だ。しかしRAMPSを入力させたところ、自殺リスクが高いという結果が出た。
生徒一人で回答する1次検査でリスクが判明した場合、養護教諭が画面に表示される質問文を手がかりに2次検査(問診)を15分ほど、必ず当日中に行うことになっている。 この男子生徒への問診で、養護教諭が「昨日学校を休んでいたよね」と尋ねると、「死のうと思ったんです」という言葉が返ってきた。 動機は進路の悩みだった。学校を休む前日に三者面談があり、父親が挙げた進学目標を実現できないと感じたという。担任から「頑張ろうね」と声をかけられ「はい」と答えたが、翌日には自分の部屋で死のうとロープを用意。実行直前までいったが、怖くなって先送りしていた。 養護教諭はこう伝えた。「あなたがいなくなるとみんなつらい。命に関わる大事なことだから、今から親御さんを呼んで話をするよ。同席してもいいよ」。男子生徒は同席することは恥ずかしがったが、保護者への連絡は拒まなかった。 養護教諭は駆けつけた保護者を前に、RAMPSの結果を客観的データとして示しながら説明した。保護者は「たしかに自分の部屋にずっといたけれど、そんなに悩んでいたとは」と驚き、本人と自宅でしっかり話をすることを約束した。 その日以降、男子生徒はきちんと登校し、無事に卒業。この春、大学生になった。養護教諭は振り返る。