「“売国奴”と誹謗中傷」「ウンチでも食ってろ!と写真を添付」 兵庫県知事選で「斎藤支持派」が暴走した理由
「斎藤は悪玉か、善玉か」という一つの争点に絞られた
そんな異様な選挙戦の投票率は3年前の選挙を15ポイント近くも上回る55.65%に達した。 その背景をITジャーナリストの井上トシユキ氏がこうひもとく。 「自殺した元県幹部の告発文書をきっかけに、県議会が全会一致で斎藤氏の不信任決議案を可決したのが9月。以来、斎藤氏には“パワハラ”や“おねだり”といった負のイメージが定着しましたが、それらは告示日を迎えると急速に払拭されていきました。その理由こそ、SNS上で伝播した“斎藤さんは悪くない”との言説です。これが現実の世論形成にまでつながるうねりを見せました」 今夏の都知事選で、石丸伸二・前広島県安芸高田市長がSNSをフル活用して170万票近くを集めた「石丸現象」を彷彿とさせるものだった。 ただし都知事選と違って、今回の選挙にはある大きな特徴があったという。 それが選挙戦が始まるや、政策論争は脇へと追いやられ、「斎藤は悪玉か、善玉か」の二者択一、という一つの争点に絞られたことだった。
エコーチェンバー現象
井上氏が続ける。 「斎藤氏を巡る善悪論争となった時、善玉論を訴えたのはSNSを始めとしたネット空間に限られました。ところがネット上でその情報を精査しようとしたり、真相を探ろうとしても、同じような内容や自分の信じたい情報ばかりがタイムラインや検索結果に出てくるといった、エコーチェンバー現象にとらわれた有権者も少なくなかったとされます」 何度もその手の情報を目にするうち、「なぜ、テレビはこの重大情報を取り上げない?」などと、大手メディアへの不信を強めるだけでなく、 「そういった情報環境に身を置くと、マスコミがたたく斎藤氏こそ“本当は被害者なのでは”との心証が逆に形成される可能性も指摘されています」(同)
「陰謀論が生まれる構図と似通った部分が」
この点、陰謀論ウォッチャーの山崎リュウキチ氏がこう補足する。 「今回の知事選を陰謀論の一言で片付けるのには無理がありますが、斎藤支持者の動向を観察すると陰謀論が生まれる構図と似通った部分が見られたことは事実です。人は“希代の悪人”と名指しされた人物が、“実は善人だった”と反転するストーリーに強く引かれる面を持っています。斎藤氏がこのストーリーにぴたりと当てはまる部分があったのは否定できません」 新聞・テレビの報道よりも、SNSなどネット上の情報を信じる有権者が増加した結果、このようなストーリーが幅広くシェアされることになったのだ。 「ネットの情報は玉石混交で信用できないもののほうが多いといった認識がこれまでは主流を占めていました。ですが、ここ1~2年で“真実はネットにこそある”といった風潮が強まりつつあると感じています。ネット黎明期に盛んに叫ばれたフレーズですが、既存メディアへの不信の高まりとともに、再び台頭の兆しを見せ始めている」(井上氏)