『るるぶ』、旅行の枠超えて 好奇心やファンに寄り添う JTBパブリッシング『るるぶ』(下)
旅行ガイドブックの『るるぶ』は「発行点数世界一」に認定されたことがある旅行情報誌だ。2022年8月発売の『るるぶホノルル'23』で、旅行情報誌『るるぶ情報版』の通巻6000号を達成した。累計総発行部数は5億部に迫り、日本国民全員が4部ずつ買った計算になる。2023年に50周年を迎えた『るるぶ』の強みに迫った。(前回の記事<旅行ガイド『るるぶ』、安心の羅針盤 初心者向けに軸足>) 1973年に創刊された『るるぶ』の歩みは日本のトラベル史を映す。旅行がレジャーとして日本に定着していく動きに伴走するかのように、『るるぶ』もほぼ右肩上がりに販売部数を増やしていった。1980~90年代には海外旅行のブームが訪れ、1987年の『るるぶ香港 マカオ 広州 桂林』に始まる海外エリア版も広く読まれた。
旅先が広がり、リピーターの旅行者も増えたことを受け、『るるぶ』は対象エリアを広げていった。国内外に旅先は多いが、時代ごとに移ろう読者の旅心をしっかり受け止める編集者の姿勢が頼もしい。「担当編集者はみんな旅行好き。社内での情報交換も盛ん」と、JTBパブリッシング(東京・江東)の永島慎一郎経営企画部長は『るるぶ』を支える企業風土を語る。 1990年代以降、対象エリア以外の切り口が厚みを増した。「目的別・テーマ別の提案を増やしたのも、読者の裾野を広げる効果が大きかった」(永島氏)。温泉や遊び場など、各種の行楽テーマを設定し、都道府県単位のエリアにとらわれない旅へと読者を誘った。 テーマ性を重んじた編集にあたっては、「愛情と熱量が大事。思いが足りないと、ファンに底を見透かされてしまう」(永島氏)。『るるぶ』の編集部ではそうしたコアな関心を持つ担当者が名乗りを上げて企画を立ち上げることがあり、「入社面接の際に希望のテーマを挙げ、実現させた若手編集者もいた」という。
新機軸は「知る」「つくる」「学ぶ」
しかし、2020年春からは事情が一変した。新型コロナウイルス禍に見舞われ、旅行需要は「蒸発」した。徐々に記憶が薄れつつあるが、当時の合言葉は「旅」の反意語とすらいえそうな「STAY HOME」だった。 『るるぶ』を買い求めるのは、「実際に旅行の予定が決まってからというケースが大半」(永島氏)。だから、旅に出ないのに『るるぶ』を買う人はまずいない。返品が相次ぎ、「事業の存続そのものが危ぶまれる状況に立ち至った」(永島氏)。しかし、『るるぶ』はつぶれなかった。それには理由がある。 コロナ禍が深刻になったのは、2020年に入ってから。その年の5月にJTBパブリッシングは「知る」「つくる」「学ぶ」を新機軸として打ち出した。旅行が難しい状況を迎え、旅行情報にとどまらず、ライフスタイルに寄り添うサポート商品の開発にアクセルを踏み込んだ。具体的な編集にあたっては「旅行ではない、推しやファンダムなどに目を向けた」(永島氏)。