『るるぶ』、旅行の枠超えて 好奇心やファンに寄り添う JTBパブリッシング『るるぶ』(下)
実はコロナ禍が起きる以前から、従来の旅行ガイドブックの枠にとらわれない企画を準備していた。例えば、『るるぶラグビー日本代表』(2019年7月発売)はラグビー初心者やライトファン層に向けてラグビーのルールや観戦マナーを手ほどきした。『るるぶマンガとクイズで楽しく学ぶ! 47都道府県』(2020年3月発売)に始まる、地理や歴史を学べる児童向け学習漫画のシリーズは累計50万部を超える。 言葉や音楽を通じた、「移動を伴わない旅」にも手を広げていた。『るるぶK-POP×韓国語』(2019年2月発売)はK-POPファン向けの韓国語会話集だ。旅先で使える基本フレーズに加え、サイン会やライブで使える韓国語を収録。「マジ?」「ウケる!」といった、K-POPファン世代が使うくだけたフレーズも紹介している。 直接的には旅行と関係しないテーマでも、『るるぶ』で培ってきた「ビジュアルで親切なページを作る編集ノウハウが生きた」(永島氏)。その分野の初心者にとって、イメージをつかみやすい地図や写真などの視覚的な構成は助けになる。初心者を意識したガイドブックならではのレイアウトや言葉遣いは入門書的な手引きに役立ったようだ。
宇宙へ、古代へ、脳内大航海へ
旅を封じられたコロナ禍の時期にも『るるぶ』の旅心は縮こまらなかった。むしろ、実際には体験が難しい旅を頭の中で楽しむという「妄想旅行」を打ち出し、旅のバリエーションを増やした。「家で過ごす時間が増えて、知ることへの関心が高まった」(永島氏)。「知る」「つくる」「学ぶ」の新機軸はこのニーズにフィットした。 『るるぶ』初の宇宙ガイド『るるぶ宇宙』(2021年3月発売)は「妄想旅行」というジャンルが可能性を秘めたマーケットであることを示した。発売直後に緊急重版が決まった。『るるぶ宇宙』が空間の壁を破った後、『るるぶ縄文』(2022年8月発売)は時空すら超えた。縄文時代の生活や文化を掘り下げ、謎に迫った。 エヴァンゲリオンのモデル地として知られる神奈川県箱根町をはじめ、ゆかりのスポットをカバー。庵野秀明総監督の出身地、山口県宇部市も取り上げている。登場人物と出掛ける「妄想旅行計画」のような読み物を盛り込んで、道案内の先を見せた。 ファンブックの開拓も進んだ。漫画『ONE PIECE』がテーマの『るるぶONE PIECE』(2021年3月発売)は読者を脳内大航海に連れ出した。『るるぶ新日本プロレス 公式ガイドブック』(2021年3月発売)では新日本プロレスとタッグを組んだ。連載1000話を超える『ONE PIECE』には海図のような副読本が欲しくなる。長い歴史を持つプロレスの世界もビギナーには手ごわい。旅とは別のジャンルにもガイドブック的な案内は望まれていたようだ。 コロナ禍の時期には「アニメやゲームとの連携が進んだ」(永島氏)。とりわけ、2022年7月に出版した、アニメシリーズ『エヴァンゲリオン』とコラボした『るるぶエヴァンゲリオン』は新たな節目になったようだ。