「気遣い下手」には絶対にわからない…伝説の作家が「ゴルフ初心者の編集者」にそっと伝えた"大人のひとこと"
■「いいんだよ。ゴルフの上手いヤツに仕事ができるヤツはいないから」 ゴルフは毎月のようにご一緒していました。各社の担当者と回ることが多かったのですが、みなさん上手だし、初心者の私と回るのは苦痛じゃないかと思うのですが、先生は、そんな素ぶりは決して見せないんです。こちらが恐縮して「すみません、下手で」と言うと「いいんだよ。ゴルフの上手いヤツに仕事ができるヤツはいないから」と、あえてそういうフォローまでしてくださるんですよ。そんな方でした。 そういえば担当をしていて怒られたことはほとんどなかったですね。一度だけ、自分の仕事が忙しくて締め切りをサバ読んで1日早く伝えたことがありまして、すぐにバレて怒られました。「週刊誌なのに明日地震が起きたらどうするんだ!」って。実際、先生は締め切りを必ず守る作家でした。 私が新型コロナにかかって自宅療養したときには、毎日電話をかけてくれました。他の担当編集者にもそういうふうにされていたみたいです。とにかく“身内”には優しい方でした。エッセイを読んでいてもそうなのですが、どことなく父権的なのに優しいという、そのギャップは大きな魅力でしたね。 ■伊集院氏はいつも「予定調和はダメだ」と言った 一方で、ああしなさいこうしなさいと指南することはありませんでした。ただ、いつも「予定調和はダメだぞ」と言われていましたね。つまり、流されるな、自分の頭で考えろという意味だと、私は解釈しています。 亡くなってからまとめた名言集『風の中に立て』に、阿川佐和子さんがこんなコラムの一文を寄せてくださっています。「『いいか、ゴルフは遊びだ。真剣にやれ!』そう言って伊集院さんは、私を笑わせ、励ましてくださいました」。阿川さんも、伊集院さんは自分の道理で行動され、恩を受けた人は決して裏切らない、とおっしゃっていますが、その通りだと思います。そして、そのご自分の流儀を貫いた人だと思います。 ※本稿は、雑誌『プレジデント』(2024年10月4日号)の一部を再編集したものです。 ---------- 羽鳥 涼(はとり・りょう) 編集者 講談社 第一事業本部 週刊現代編集部 編集。2018年から伊集院氏が亡くなるまでの5年間、「大人の流儀」シリーズを担当。『風の中に立て ―伊集院静のことば― 大人の流儀名言集』をまとめた。 ----------
編集者 羽鳥 涼 構成=桑原和久 写真提供=講談社