“SNS不適切投稿”の岡口裁判官を罷免した弾劾裁判「手続の違法」とは? 国会議員が“ガチ裁判”を行うリスク
審判対象が“特定”されず「攻撃防御」が困難に
岡口氏は、審判対象の特定の点からも問題があったと指摘する。 裁判の原則として、審判対象の特定が要求される。もしも審判対象が特定されていないと、当事者は攻撃防御を行うことができないからである。 本件で問題となった弾劾事由は「職務の内外を問わず、裁判官としての威信を著しく失うべき非行があったとき」(裁判官弾劾法2条2号)である。したがって、裁判官訴追委員会は、具体的に岡口氏のどの行為がこの条文に抵触するのかを特定しなければならないはずだった。ところが、審判対象の特定が不十分なまま審理が進められたという。 岡口氏は例として、まず、訴追状と冒頭陳述とで、審判対象が整合していなかった点を挙げた。 岡口氏:「訴追状で挙げられていた私の行為は13個だったのに、冒頭陳述では16個になっていた。しかも内容も違う。 たとえば、訴追状にいっさい記載されていない『裸の写真』まで入っていた。しかも、その投稿が一連の行為のなかで中核的な行為だと書かれていた。 これではどちらで防御すればいいのか分からない。私は、裁判長が手続違反を指摘して冒頭陳述を停止させると思っていたが、そのまま証拠調べに入ってしまった」 審判対象の特定という観点からは、訴追事由の内容が不明確なものや、一部のみを切り取ったものもあったという。 岡口氏:「訴追委員会による13個の訴追事由のなかには、『被訴追人は表現行為をしたものである』というのがあった。 訴追委員会に対し、表現行為が何をさすのか釈明を求めたが回答せず、最後までそのまま明らかにされなかった。 また、表現行為の一部のみを切り取った訴追事由もあった。表現行為は切り取ってしまうと意味がまったく変わるため、絶対にやってはいけないことだ。 これも、指摘してもなんらの手当てもされないまま最後まで進んでしまった」
国会議員の職務遂行の問題…「裏金問題」の影響も
裁判員を担当する国会議員の職務遂行についても、岡口氏は手続保障の観点からの指摘を行った。 裁判の原則として、裁判の公正を確保するために、当事者には十分な手続保障が与えられなければならない(憲法31条参照)。その一環として、裁判所の面前で本人が十分に攻撃防御を尽くす機会が与えられなければならない。 また、裁判所が判決を下す前提として、合議体において十分な協議が行われなければならない。 とりわけ、弾劾裁判による罷免は、その裁判官の身分のみならず法曹資格を奪うという重大な不利益を与える。だからこそ、この手続保障と、裁判員同士の合議がきわめて重要なはずである。 岡口氏:「裁判員のなかには、目に余る人もいた。欠席するわ、遅刻するわ、審理途中で寝ているわ…。 裁判員の交代もしょっちゅうで、最初から最後まで裁判員を務めたのは3人しかいない。 今年4月の判決が近くなってから加わった人も何人かいた。これは自民党の『裏金問題』の影響が大きい。同党の役職者が辞めてしまい、その穴埋めで裁判員だった議員が駆り出され、交代してしまった。それらの人たちはほとんど審理に加わっていない」