“SNS不適切投稿”の岡口裁判官を罷免した弾劾裁判「手続の違法」とは? 国会議員が“ガチ裁判”を行うリスク
国会議員が初めて“本格的な裁判”に取り組んだ…岡口氏「これは社会実験だ」
岡口氏は、上記のような特殊性をもつ今回の裁判の意義について、以下のように分析を加えた。 岡口氏:「弾劾裁判所では従来、最高裁が求めた場合、かつ、犯罪行為に類する場合に限って、形式的な処理を行うという運用が行われてきた。 ところが、本件では本格的な審理手続きが行われ、多数の事実認定が必要とされた。また、『表現の自由』の問題などを含む難しい法的な判断も求められた。 訴訟手続きや法律や事実認定の素人である裁判員が、どこまでそれらを遂行できるのか、という問題があった。 また、国会議員である弾劾裁判所の裁判員が職務に対する責任感はどの程度なのか、同じく国会議員によって組織される裁判官訴追委員会からの中立性、公正性、といった点も問題となった。 そのような意味で、私に対する弾劾裁判は、一種の社会実験だったと考えている」 では、本件において、訴訟手続きはどのように進められたのか。以下、問題点ごとに検証する。
「時効」の適用に関する問題
まず、時効に関する問題点。岡口氏は「刑事事件投稿」に関連するものと「犬事件投稿」に関連するものを含む13個の表現行為について訴追された(投稿の内容については後編にて詳述する)。 訴追が行われたのは2021年6月16日なので、その時点で2017年12月~2018年5月の4個の表現行為については時効期間の3年が経過していた(裁判官弾劾法12条)。にもかかわらず、訴追委員会は訴追を行い、弾劾裁判所もこれを認めた。 岡口氏:「訴追委員会は、13個の表現行為が一連のものとしてつながっているから、3年を経過したものも時効にかからないと主張した。 理由を聞いていると『過払いの一連性』の理論と同じだという。 しかし、これを表現行為にあてはめるのには無理がある。たとえば『刑事事件投稿』と『犬事件投稿』は内容からしてまったく別のものだ。13個の表現行為はそれぞれの表現方法もさまざまだし、表現媒体も異なる」 ちなみに、過払い請求における「一連性の理論」は、貸金業者に対して行う『過払い金請求』を、時効期間の10年より前の分まで認めるための理論である。 すなわち、借金が法外な利子で膨れ上がって返済できなくなり、同じ貸金業者から借り入れを繰り返さざるを得ないという特殊な実態に着目したもの。暴利に苦しむ人を救済するための、特殊かつ技巧的な論理構成と位置付けられている。その性質上、他のケースに転用することは難しい。 岡口氏:「私は、弾劾裁判所はこのような主張を直ちに排斥して、時効にかかったものは審理対象から排除して、それ以外のものだけを審理するという訴訟指揮が行われると思っていた。 しかし、弾劾裁判所は訴追委員会の主張を受け入れてしまった」 判決文を読むと、「刑事事件投稿」に関する9個の行為と「犬事件投稿」に関する3個の行為について、それぞれ「事実関係の一体性」を認め、結論としてすべての行為が時効の制限にかからないとしている。 しかし、前述の通り、このような論理構成は、これまで裁判所が行ってきた時効に関する判断との整合性に問題がある。