「塩をひとつまみ入れると美味しい」米英の外交にも影響した“紅茶の飲み方”論争
お茶は異文化を知るのに格好の手段になる
そして、紅茶は世界共通のコミュニケーションツールでもあります。 今回の「紅茶に塩論争」がここまで大きくなったのも、イギリス人が紅茶の知識だけではなく、美味しい紅茶に対しての主張やこだわりを一人一人が持ち合わせていることも要因のひとつです。 たとえば「紅茶を飲む時にカップの中に入れるのは紅茶が先かミルクが先か?」という論争は、100年以上に渡って言い争いが続くイギリス人が大好きな議題です。 ミルクを先に入れるMIF派(Milk in first)は「ミルクの量が明確、よく混ざって美味しくなるうえ、茶渋もつきにくい」といいます。 対して後からいれるMIA派(Milk in after)は「先にミルクなんて入れたらミルク臭で紅茶本来の香りが台無しになる。紅茶は香りを楽しむ飲み物であって、まずはストレートで紅茶の香りを楽しむのが流儀」と反論し、両者一歩も譲りません。 ちなみに、今回の「紅茶に塩」論文の出版元である英国王立化学会(Royal Society of Chemistry)は、2003年に「化学的なアプローチから立証した完璧な紅茶の淹れかた」として、MIFのほうが美味しい紅茶になると結論づけています。 検証を行った結果、高温の紅茶の中に温度の低いミルクを入れると熱変性が生じやすいため、逆の順序で淹れたほうが風味は損なわれにくいとの答が出たと発表したのですが、そんなことお構いなし。この論争に終止符を打つ気は、さらさらないようです。 そのほか「ティーバッグが先かお湯が先か」「ティーカップのハンドルに指を通すか通さないか」など、階級社会のイギリスでは、その家々に伝わるマナーやルールがあり、自分の考えをしっかりと相手に伝えるスキルを鍛えています。 一見、どちらだって同じなのでは? と思うようなこの問題に関しても熱いディベートを繰り広げるほど、論争好きという面もあります。 日本人とイギリス人は同じ島国ということもあり、国民性に共通点が多く見られます。伝統やマナーを重んじるところも一緒。 そして、イギリス人にとって紅茶文化は日本の茶道と同じようなものです。「完璧な一碗は、抹茶に塩を入れて電子レンジでチンすればOK」といわれたら、伝統文化を理解していないと思うのも当然です。 実は、お茶というのは世界中に数多く存在する嗜好飲料の中で、最も消費されている飲みもの。地球上では日々40億杯以上のお茶が消費され、水の次に多く飲まれています。 お茶を飲むスタイルもそれこそ千差万別、中にはお茶に塩はあたりまえ、そこにバターや牛乳まで加えて飲む国もあります。それぞれの国に独自の慣習があり、それらの社会文化様式は尊重されるべきナショナル・アイデンティティというわけです。 皆さんも海外に行かれる際、あるいは海外の方とアフタヌーンティーを愉しむ際は、お相手の文化様式にも気にかけておくといいでしょう。