認知症の母がくれた「贈り物」 映画「ぼけますから」監督が講演 103歳の父に”生きがい”/兵庫・丹波市
兵庫県丹波市の春日文化ホールで開かれた「社協ふくしまつり」(同市社会福祉協議会主催)の中で、認知症の高齢の母を介護する父の暮らしを描いたドキュメンタリー映画「ぼけますから、よろしくお願いします。」を手がけた信友直子監督が、「認知症が私たち家族にくれた贈り物」を演題に講演した。約350人が来場し、認知症への向き合い方のヒントを得た。信友監督と父に、認知症の母からもたらされた"贈り物"とは―。要旨をまとめた。
介護奮闘の93歳父 「優しく良い男」
85歳で認知症と診断された母は「スーパー主婦」だった。掃除に洗濯、料理と、何もかもが完璧だった人が、いろんなことができなくなった。すると、93歳の父が、今までまったくやったことのなかった家事を肩代わりし始めた。母は「なんでこんなこともできなくなったんだろう」と悔しがった。父はそれに気づき、あえて芝居を打った。 例えば、洗濯をするときに鼻歌を歌うようにした。すると、「ほんまは洗濯するのが好きなんかも」と母の気持ちが軽くなった。父はそんな気分ではなかったと思う。でも芝居を打ち、少しでも母の申し訳なさを取り除いた。 母は「家族に迷惑をかけてしまう」と悩んでいた。父は「病気やからしょうがない。大事なことを聞いたと思ったら、すぐわしに言いにきんさい。わしが覚える係をする」と言った。母は「頼りにしとるけえね」と返した。すごくかわいらしい老夫婦になっていた。認知症で苦しむ人の気持ちが晴れるよう、相手の気持ちを想像した声かけが大事。 二人を観察し始めると、思った以上に父が良い男だと気づいた。自分の伴侶がピンチに陥ると、優しく手を差し伸べられる。母が認知症にならなかったら、父のことはずっと無視していた。これは、認知症が私にくれた贈り物だと思う。 認知症をいくら嫌がり、目を背けても、治るわけではない。認めた上で、よくよく探せば良いこともあったはず。良かったことに目を向け、それを大切にするのは、認知症とうまく付き合う方法だと思う。