【羽生結弦30歳で新たな“氷現者”に】『音』でつないだ『命』のパフォーマンス、単独公演第3弾の開幕
テーマの源流にあったのは、自らの探究心だった。 「自分が生命倫理というものを、小さい頃から色々と考え、大学でも(学びの一環で授業を)履修していく中で、生きるということの哲学についてすごい興味を持っていました。そこからずっと自分の中でぐるぐるとしていた思考や理論をまた勉強し直してきました。皆さんの中にも、この世の中だからこそ、生きるということについて、皆さんなりの答えが出せるような公演にしたいと思い、“Echoes of Life”を綴りました」
幼少期から持っていた「音」の能力
構想のベースに添えた羽生さんの思考と難解なテーマを、物語に落とし込む上で、羽生さんには大きな武器があった。それが「音」だった。 思考が「音」を媒介させることで、学問を専門にする哲学者だけでも、氷上で滑ることに優れたスケーターだけでも実現できない「世界観」を創出した。 公演の中では、案内人がこんな言葉を紡ぎ出したところから、物語は一気に動き出す。 「貴方は言葉や文字を『音』として感じ、その身に宿すことができます」 これは決してこじつけではなく、羽生さんの幼少期からの経験が生きている。 「元々、自分は(目の前の)光景の、色や感情などを、音としてとらえていました。簡単に言うと、例えば、赤という色に対して、情熱だと思う方もいらっしゃれば、恐怖と捉える方もいらっしゃいますよね。人それぞれの解釈なのですが、僕は(言葉や文字をイメージするときに)『音』が、小さい頃から聞こえてきたタイプでした。 そういった自分の経験を、フィクションとして書く中で『この子(ノヴァ)にどういう能力を持たせようかな』と考えたときに、言葉の抑揚や意味といったものを表現することを物語の中に入れ込んでみたら、哲学が『音』として体に入ってくる、その哲学が音楽になって、プログラムができ上がる、というようなことを書いていった物語です」 練り上げたストーリーを鮮やかに表現するために欠かせない華麗なプログラム。中でも圧巻は、「ピアノコレクション」から、羽生さんの“宝刀”の一つであるショパンの『バラード第1番』へと続く前半のハイライトシーンだった。